親の価値観や思いを子どもに押し付けていないか
ひきこもり当事者への聞き取りのなかで、頻繁に聞かれたのが、医師やソーシャルワーカー、支援団体への不満と不信感だった。親も自分を理解してくれないし、支援者も心の底では自分を理解してくれない、ということを深く意識している。自分を理解し、大事にしてくれる人がどこにもいない社会で生きることがどれだけつらいことか、想像するだけで苦しくなってくる。ひきこもり当事者の社会的な認知や理解が広がるだけでも、当事者を苦しみから解放することができるはずである。
また、理解してくれない親が悪いと捉える方がいるかもしれないが、親とすれば子どもに期待するのは当たり前。愛情の裏返し、幸せを願ってのアドバイス、などという擁護の声も聞こえてきそうである。
社会的な価値規範、社会通念、固定観念が親のなかにはある。「こういう生き方のほうがよい」という価値観である。当事者は幼いころから、そういった社会通念に支配された親の思いと相反し、悩みを深めていく様子も理解できるだろう。
いうまでもなく、人間にはいろいろな生き方があり、幸せの感じ方も違う。たとえ、親とはいえ、価値観や思いが違うのは当然のことである。これを自然と無意識のうちに、子どもに押し付けていないか、自戒する必要があるとは言えそうだ。
家族関係は?
「両親とも裕福な家庭に生まれました。父の親(祖父)は大手企業のグループ会社の重役で、専属の運転手がいるような地位に就いていました。母(祖母)も社長の娘です。
でも、父親は仕事をしていません。たまに仕事に行っているような体裁は繕っていたけれど、家にいることが多かった。たぶん、父親は子どものころから勘違いしていたんだと思います。親が権力を持っているので、『自分も権力を持っている』と勘違いしたタイプなんだろうなと思います。
私が高校を卒業したころ、両親が別居をし始めて、その後、離婚して以来、父親とはまったく会っていません。
離婚は、母親のほうから一方的に言いだしたようです。2歳下の妹が高校2年生の夏休みに、『実家に戻るから』と言われて、私と妹は母方の実家で暮らすようになりました。
ただ、突然というわけではなく、子どものころから夫婦仲がよくないのは薄々感じていたし、物心ついたころには母親が『離婚したい』と話していましたから。今、母親は何もしておらず、お金もないので生活保護を受けて暮らしているようです。