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場面緘黙とは?

 場面緘黙(ばめんかんもく)とは家庭などではごく普通に話すことができるのに、例えば幼稚園や保育園、学校のような「特定の状況」では、1か月以上声を出して話すことができない状態を指す。典型的には、家では饒舌で、家族とのコミュニケーションを問題なくとれるのに、家庭以外や学校ではまったく話せないことが続く状態。本来の能力を、人前で十分に発揮することができなくなる。

 子どもが自分の意思で「わざと話さない」と誤解されることも多いが、そういう状態とはまったく異なる。また、人見知りや恥ずかしがりとの違いは、「そこで話せない症状が何か月、何年と続くこと」と、「リラックスできる場面でも話せないことが続くこと」である。

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 人によっては症状(話せない場面・程度)は大きく異なるが、話せない場面のパターンはその人ごとに一定している。

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 近年、場面緘黙は、「不安症や恐怖症の一種」と捉えられるようになり、「話すのが怖い」のではなく「自分が話すのを人から聞かれたり見られたりすることに恐れを感じる」とする考えが主流となっている。原因や発症メカニズムは研究段階である。

 発症要因は、「不安になりやすい気質」などの生物学的要因が主因で、そこに心理学的要因、社会・文化的要因など複合的なものが影響しているのではないかと考えられている。不安が高まりやすく、行動が慎重になるため、環境に慣れるのに時間がかかる。

30歳過ぎでひきこもりに

「ひきこもったのは、30歳をすぎたころ。ときどき支援機関に行ったり、アルバイトで働いていましたが、声が出せないのでおとなしい人間と思われて、大変な仕事を押しつけられたり、周囲から都合よく扱われて、職場の人間関係がいやになってしまったんです。

 アルバイトは飲食店が多かったのですが、自分でもホールでの接客は無理だろうと思っていたので厨房での仕事を選びました。それでも試用期間に、ホール担当も厨房担当も一緒に掛け声の練習をやらせるような、体育会系の店が多く、どのアルバイト先でも『声が小さい!』と怒られてしまって……。

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 そんなこともあり、30歳くらいから精神科にふたたび通院するようになりました。アルバイトはなんとか続けており、仕事を終えるとその足で病院に向かうような日々でした。抗うつ剤や精神安定剤、睡眠薬を処方してもらってましたが、薬が合わなかったのか、こうした薬を服用しても人前で普通に話せるようになるわけでもなく、状況は何も変わりませんでした。するとお医者さんは『もっと薬を増やしましょう』と、どんどん増やしていき、いつも頭がボーッとするようになり、仕事が覚えられない。体も常に重くて、だるくてどうにもならなくなってしまいました。精神科に通いはじめて3か月後には、仕事を辞めざるをえなくなり、ひきこもるようになったんです」

 香取さんは児童期に不登校やひきこもりになったのではない。虐待を受けながらも一生懸命に生きてきた。10代、20代も生きづらさを抱えながら頑張ってきたことが理解できる。しかし、30代になり、職場の人間関係、職務の多さから、病気が悪化する。

 ひきこもりの大きな要因が、職場のパワハラや人間関係にあったことを語ってくれた。もともと抱えていた生きづらさが増して、ひきこもってしまった。個々の当事者が置かれた環境の多様さ、複雑さが理解できるだろう。