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「家族全員が私をバカにするような家でした......」

 私がひとり暮らししている家は、母親にバレないようにこっそり引っ越しをしました。今は完全に縁を切り、母親がどこにいるのか知りません。

 妹とも関係は悪いです。幼いころはそうでもなかったのですが、幼稚園に入ったくらいから、私がしゃべらないのがおかしいと思ったらしく、見下して嫌がらせをするようになりました。親もそういう様子を見ていながら、妹の味方をして、家族全員が私をバカにするような家でした……」

 香取さん自身が家庭での人間関係が最悪だったと語っているのは「家族全員が私をバカにするような家」という表現にすべてが凝縮されている。香取さんにとって、家族は温かく受け入れてくれて居心地のいい場所ではなかった。

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 しかし、その居心地の悪い家族と別れるわけにもいかず、仕事に就いて別居するまでは共に暮らさなければならない。まさに逃げ場のない監獄のような苦しい空間にいたことを強いられてきたのだ。

 家族を語る際に、人は自分の家庭を物差しに考えがちである。親は幸せを願っている、親は子どもに害悪を加えることはない、などが一般的であろう。

 “毒親”。このように言っておきたいのは、家族や親が当事者にとっては害悪になるケースが珍しくないということだ。親は温かくもないし、無条件で受け入れてくれる存在でもない、という視点は、ひきこもり対策でも共有する必要があるだろう。

ひ老会に参加した理由

「どこにも自分が行ける場所がなくて、精神科のデイケアや、精神疾患を抱えている方の集まりくらいしか行くところがない……。ところが、そういう場でも理不尽なことが多くて、結局、家にいるしかなくなってしまった。

 ひ老会に来たのは、前にテレビに少し映っていたのをたまたま見て、『こういう集まりがあるんだ』と名前を何となく覚えていたんです。それで1か月ほど前、ひきこもり関係のシンポジウムに行ったら、ぼそっと池井多さんが話していて、ひ老会のチラシをもらいました。メールをしてみて、行ってみようかな、と思って参加しました」

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 香取さんに限らず、当事者の会に参加するひきこもり当事者は多かった。しかし、そのような場が人によっては苦痛だということもある。ただ、当事者の会や家族会を否定する必要はない。自分とは合わないこともある、という認識をどこかに持っておくべきだろう。

 端的にいえば、自分に合う集団や団体に身を置けばよいということだ。香取さんは自分を理解してくれたり、居心地のいい空間を探し求めて試行錯誤を続けたようだ。さまざまな情報を得ながら、可能な範囲で居心地のいい空間や関係性を見いだしてほしい。