国際組織「金融活動作業部会」(FATF)の第4次対日審査が10月28日から始まった。FATFは、テロ対策を主導する米国を中心に、37カ国・地域および2つの国際機関の金融当局や検事、弁護士らがチームを編成し、各国のマネーロンダリング対策の実態を相互に審査する組織。日本は今回、2008年の第3次審査以来、11年ぶりに審査対象になった。
このFATFの動きに日本政府は神経を尖らせてきたという。実際、金融庁の森田宗男総合政策局長は9月19日に行われた庁内の幹部会議で「FATFが求めている水準にわが国が達していない点があることは事実」と漏らしている。
一体、FATFはどこまで日本におけるマネロンの実態を把握しているのか――ジャーナリスト・児玉博氏が「文藝春秋」12月号に深層レポートを寄せた。
愛媛銀行から香港へ970万円を送金した男
FATFが今回の審査で、最も厳しく見ているのは、米国の経済制裁対象国である北朝鮮などへの不正送金だ。徹底調査のために、米財務省からも様々な形で情報提供を受けているという。米財務省は、世界中の金融機関で日々行われているコルレス取引(外国為替取引)、すなわち、ドル取引の情報を全て押さえている。北朝鮮への制裁強化を掲げてきた安倍政権だが、もし日本からドルを通じた不正送金があれば、FATFに摘発されかねない。
そんな中、金融庁幹部たちが「FATFにターゲットにされるのではないか」と頭を抱えてきた“案件”がある。
舞台となったのは、四国地方の第二地銀、愛媛銀行だ。
17年5月26日、愛媛銀行石井支店の窓口に1人の男性が現れた。日本名を名乗るこの男性は、愛媛銀行大阪支店に口座を持ち、同行の通帳やキャッシュカードを持参していた。依頼内容は、愛媛銀行大阪支店の口座から970万円を、香港の恒生(ハンセン)銀行の口座に海外送金したいというもの。使途目的の欄には「貸付」、送金先には「K Barun Company」という会社名が記載されていた。