韓国は「いつでも失効可能」という前提付きで、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の終了通告を“停止”する方針を日本に伝え、23日午前0時の失効直前の土壇場で「海洋国連合」に踏みとどまった。また、日本が厳格化した輸出管理措置については、世界貿易機関(WTO)への提訴手続きをとめ、日韓間で輸出管理措置の政府間協議を開くことになった。GSOMIAは「終了すべき」が50%を超える韓国世論と米国からの再三の圧力・説得の狭間で、文在寅大統領が行った苦渋の選択であろう。

 GSOMIAとは、たかだか「軍事上の秘密を要する情報を第三国に漏洩しないことを定める情報保護協定」にすぎない。それなのに、なぜ米国は大仰に韓国によるGSOMIA破棄を押し留めようとしたのだろうか。その理由は、米国と中国の覇権争い(米中経済戦争)に極めて大きな影響をもたらす可能性があるからだ。本稿では、韓国にGSOMIA破棄を誘う背景の一つである米中パワーバランスの変化について説明したい。

習近平国家主席と握手する文在寅大統領 ©AFLO

朝鮮半島は米中の熾烈な覇権争いの“最前線”

 第1図と第2図に示すように、地政学的に見て、朝鮮半島は「大陸国家と海洋国家の攻防の地」である。現在貿易戦争を展開している米中にとって、朝鮮半島は熾烈な覇権争いを演じる重要な舞台(一正面)なのだ。

ADVERTISEMENT

 米国にしてみれば、朝鮮半島は太平洋に進出しようとする中国を封じ込める「封じ込め政策」のための重要な拠点であり、朝鮮半島の南半部を占める韓国は、その軍事拠点として極めて重要である。

第1図(著者提供)
第2図(著者提供)

 一方の中国にとっても、朝鮮半島は「一帯一路」戦略に基づき太平洋に進出する足掛かりとして不可欠の要地である。14億に近い人口を養わなければならない中国が、太平洋に向かって勢力圏を拡大しようとするのは必然である。中国はそのために明瞭な目標(第1・第2列島線)を設定し、軍事的に米国を凌駕するエリアを拡大しようとしている。中国にとってさほど重要な朝鮮半島の南半分(韓国)に在韓米軍が展開していることは、極めて大きな脅威となっている。

 その様子を米国に当てはめてみると、いわばフロリダ半島南部に強力な中国軍が展開しているのと同じことなのである。このように見れば、韓国を自陣営に取り込み、在韓米軍を撤退させることが、中国にとっていかに喫緊の課題であるかが分かるだろう。