米中の“均衡点”は朝鮮半島から徐々に東進している
今回、韓国がGSOMIA破棄に動いた背景の一つとして、朝鮮半島における米中パワーバランスの変化について説明したい。パワーとは軍事力のみならず経済力、外交力、情報力などの総合力と理解していただきたい。第3図は「冷戦時代」と「近年」のパワーバランスの変化のイメージを示したものである。縦軸が「パワー強度」で、横軸が「太平洋を横断する東西地理的位置関係」を表している。
両国とも、「パワー強度」はそれぞれの国の位置で最も高く、距離的に遠方になると逓減していく。米国の場合は「曲線」、中国の場合は「直線」の状態で逓減している。米国はハワイやグアムなどの基地の存在によって「パワー強度」の減少が緩やかだが、太平洋に基地を持たない中国の場合は距離が離れると急速に減少するからだ。
そして米中の「パワー強度」の交点が、パワーの「均衡点」である。図から分かる通り、「冷戦時代」における両国のパワーの均衡点は朝鮮半島(38度線)であった。だが、その後はオバマ大統領時代まで、米国の凋落と中国の台頭によりその均衡点は徐々に東方(米国の方)に移動しつつあった。すなわち、中国の勢力圏が徐々に太平洋に向かって拡張していた訳である。
ところがトランプ大統領は、中国に対して経済戦争を挑んだ。今の米国はパワーバランスの挽回を図り、中国の勢力圏を西方に押し戻そうとしているのだ。
北朝鮮の核開発によって崩れたパワーバランス
次に、朝鮮半島におけるパワーバランスの変化について説明したい。第4図にしめすように、冷戦崩壊(1989年)までは、「米国・韓国・在韓国連軍」と「ソ連・中国・北朝鮮」のパワーバランスは均衡を保っていた。
そのために、プエブロ号事件(1968年)やポプラ事件(1976年)などが起きても、エスカレートは回避されていた。
だが、第5図のように、冷戦崩壊により北朝鮮はソ連という後ろ盾を失い、崩壊の危機に瀕した。そこで金日成・正日父子は、核ミサイル開発に注力し、自主防衛能力の強化を図った。
その結果、パワーバランスは第7図のように、中国・ロシア・北朝鮮側に有利に傾き始めた。かかるパワーバランスの変化を促す他の要因として、中国の急速台頭、プーチン大統領によるロシアの復興、米国の相対的な凋落があったことは言うまでもない。
ともに2010年に起きた韓国海軍哨戒艇撃沈やヨンビョン島砲撃などは、そのようなパワーバランスの変化を受けての出来事だったのではないか。