8月の破棄通告以降、北朝鮮の弾道ミサイルについて「日本海に落ちるものは日本のほうが正確に見えているし、日本の持っている偵察衛星の情報を一方的に韓国に与えている関係だから、GSOMIA破棄で困るのは韓国。日本側は大騒ぎをする必要がない」――そんな風に主張する一部の専門家もいました。
詳細は次に述べますが、私はこの点についてエスパー国防長官の“危機意識”を共有しています。
もしGSOMIAがなければ、日韓ともに米国防総省を情報のハブとして経由する必要がある。例えば韓国から来た情報をアメリカがいちいちスクリーニングにかけ、そのまま日本に教えられないものは加工して伝える――そうやって情報共有上で大きなコストが発生する。「朝鮮半島で有事が起きた」という1分1秒を争う状態でそんな悠長な情報交換はしていられない。
だからこそ当初から米国国務長官は韓国に対して「disappointed(失望した、裏切られた)」、米国国防省も「強い懸念と失望を表明する」と発信してきたわけです。
(2)元自衛官から見たGSOMIAのメリットとは?
GSOMIAがなくなれば、明確に漁夫の利を得るのは北朝鮮です。
韓国が日本に破棄を通告した翌日8月23日に「新たに開発した超大型ロケット砲」を発射したのを覚えている方もいらっしゃるでしょう。日米韓の連携に揺さぶりをかけました。
2016年の締結後、特に2017年に北朝鮮は弾道ミサイルなどを断続的に試射。8、9月には日本上空を通過する中距離弾道ミサイルを西太平洋に発射しJアラートが作動しました。
その際、日韓はGSOMIAの枠組みを使って情報を交換。韓国からは一部ミサイル発射の「兆候」についても情報がもたらされたと聞いています。
そして発射地点に近い韓国の情報と落下地点に近い日本の情報を、発射後に“答え合わせ”すると、「こういうミサイルを打ったのだろう」と情報をお互いに分析・共有できる。「ヤバいな。北朝鮮のミサイルはどんどん精度が上がっている」「これも新型のミサイルか」と分析が進むにつれ、「やはりGSOMIAを結んでおいて良かった」と自衛隊の現場では語られてきたのです。
8月の破棄決定までに、「主に北朝鮮の核実験や弾道ミサイル発射をめぐって、29件の秘密情報が共有された」と言われていますが、その数字にあがってこないような情報交換を含めたメリットが確かにあった。
北朝鮮の変則軌道ミサイル、自衛隊は対処できない
北朝鮮について少し詳しくお話すると、今年7月にロシア製ミサイル「イスカンデル」に似た、新型の短距離弾道ミサイルを打っています。これは“変則的な”軌道だったと報道があり、政府・関係国の誰もがそれを否定していません。