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 これがどういう脅威なのか。日本の弾道ミサイル防衛網は、イージス艦に搭載しているSM-3(迎撃ミサイル)と航空自衛隊のPAC-3(地対空誘導弾パトリオット3)による迎撃です。それらはいずれも“通常の”軌道で落ちてくるミサイルへの迎撃という前提で設計されています。

 しかし近年の北朝鮮はロフテッド軌道(通常軌道よりも高く打ち上げる)のほか、先の「イスカンデル」のようなディプレスド軌道(低高度)のミサイルを積極的に実験しています。ディプレスド軌道は、わざと低く打つため、レーダーでの探知が難しく、また飛行時間も短くなる。しかも下降段階で、「跳躍」(急上昇)すると言われており、現状の自衛隊では迎撃が難しいわけです。 

北朝鮮のミサイル発射のニュースを見つめる韓国軍の兵士 ©AFLO

 さらに日本の「防衛白書」2019年版で北朝鮮が「核兵器の小型化・弾道化を既に実現しているとみられる」と踏み込んだのをご存知でしょうか。つまり、変則軌道のミサイルの弾頭部分に核兵器が搭載される場合も十分に想定しなければいけない。私のいう“危機意識”はそういうことなのです。

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 ですから北朝鮮が開発・保持している、各種弾道ミサイルの情報は「極めて重要」であり、より発射台に近い韓国の情報、さらに彼らの工作員などを通じた一次情報のことを考えると、日韓GSOMIAは日本にとっても重要度が非常に高いといえます。

(3)今後のシナリオ――「最も悔しがっている国」

 ただし、GSOMIA延長を「最も悔しがっている国」はある意味、韓国かもしれません。報道もありましたが、世論調査会社「韓国ギャラップ」は「協定破棄を韓国国民の51%が支持、不支持は29%」と発表していました。だからこそ韓国政府もギリギリまでひくことができなかった。

潮匡人氏/軍事評論家。1960年、青森県生まれ。早稲田大法学部卒。旧防衛庁・航空自衛隊に入隊。長官官房などを経て、三等空佐で退官。帝京大准教授、拓殖大日本文化研究所客員教授などを歴任

 そして法的に言えば、失効状態を免れたもののGSOMIAは「Suspended(失効の一時停止)」という状態です。韓国大統領府の金有根・国家安保室第一次長は「いつでも失効させられる」と脅しともとれるようなことを言っています。

 破棄通告から90日で失効するわけですが、現状ではこれを「Suspend」しているだけですから、もしまた同じことを言い出したときには「(破棄まで)残りは6時間」という解釈になることも有り得ます。日韓GSOMIAの条項に「Suspend」については明記されていませんから。

 いわゆる旭日旗(自衛艦旗問題)、海自機への火器管制レーダー照射、そしてGSOMIAの破棄問題とここ1年で日韓は軍事面でも鋭く対立してきました。いつ韓国側からさらなる“ドタキャン”カードを使われるか分かりませんし、まだまだ不安定な状態が続くということは変わりません。