横綱の鶴竜、大関の豪栄道と高安、関脇の栃ノ心など上位陣の途中休場が目立った大相撲九州場所。だが、「休むことは悪いことではない」と説くのが荒磯親方(元横綱・稀勢の里)だ。発売中の「文藝春秋」12 月号でスポーツライターの生島淳さんのインタビューに答え、これからどう後進を育てていくかについて抱負を語っている。

ケガに悩まされた「休まない力士」

 100キロを優にこえる力士同士がぶつかり合う相撲にはどうしてもケガが付きまとう。しかし、荒磯親方は現役時代、「休まない力士」として知られた。横綱になるまでの15年間、在位88場所で、不出場は2014年1月場所の千秋楽、1回だけだった。

明治神宮奉納土俵入り ©文藝春秋

 だが、横綱昇進後はケガに悩まされた。初の場所となった2017年3月の春場所、13日目に日馬富士との対戦で左肩周辺に大怪我を負ってしまう。その場所は、後世に語り継がれる「奇跡の逆転優勝」を果たしたが、以後8場所連続休場を余儀なくされるなど、代償は大きかった。この時、ケガをしたことが、現在の親方の考え方に大きな影響を与えたという。

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「ケガをしてからは、人間の体についていろいろと勉強させてもらいました。暇さえあれば、人体模型のアプリを見ていたり(笑)。骨格、関節、そして筋肉はどんな動きをするのか。動きを頭で理解しつつ、復帰したらどんな動きをしようかとか、あれやこれやと考えていました。もちろん見ているだけでは、治らないのですが(笑)」

「場所が終わってからは、1ミリか2ミリほど、筋肉が削れていました」

 そうした勉強を進めていく中で、荒磯親方は「自分がなぜケガをしたかがわかってきました」という。

荒磯親方(元横綱・稀勢の里) ©文藝春秋

「それは、稽古のし過ぎです。人間の体にとって必要な、休養の重要性をわかっていませんでした。私は1年365日、基本的に稽古を休まない人間でした。それが強くなる唯一の道だと信じていたのです。ところが、場所前と場所後にエコーで筋組織を調べてみると、場所が終わってからは、1ミリか2ミリほど、筋肉が削れていました。

 稽古をすればするほど強くなれると信じていた自分にとっては衝撃的な事実でした。やればやるほど負担も大きく、筋肉が痩せていく。私に必要だったのは休養だったのです。

 そうした基本的な人体の知識さえ知らず、土俵の上で戦っていたのが私の土俵人生でした」

 現役を続ける後輩力士たちには、同じ失敗をしてほしくないと感じている。インタビューは九州場所前の10月初旬に行われたものだが、以下の言葉は、今場所中日8日目から休場し、大関陥落が決定した田子ノ浦部屋の弟弟子・高安へのエールとも受け取れる内容だった。