「私はケガをしてからも動かし続けたことで、回り道をしてしまった。私の経験からすると、土俵の上に立ちたいと思う気持ちは大切だけれど、トレーニングをして場所に出たら、また振り出しに戻ってしまいかねない。
ケガをして休場が続くと、番付が下がってしまう不安もあるでしょう。ですが、たとえ番付が下がったとしても、また這い上がるチャンスはある。そうは行かないのは横綱だけです。休場が続いても番付が下がらない横綱の先には引退しかない。この立場の苦しさはなかなか理解していただくことは出来ませんが、それこそが横綱の責任なのです」
「休むよりも稽古」という考え方を変えていきたい
そして、荒磯親方は改めて「休むこと」の重要性を強調した。
「相撲界では依然として『休むよりも稽古』という考え方が支配的です。私も引退間際は『稀勢の里は休んでばっかりだな』と言われていましたが(笑)、私の経験上、『休むことは悪いことではない』ことを、これからの力士たちには伝えていきたいです」
「私はラグビーやアメリカンフットボールといった他のスポーツが好きなこともあり、トレーニング方法などについて話を聞く機会が多いのですが、最近は、試合翌日には休まず、回復を早めるために軽く体を動かして体に酸素を供給し、試合の翌々日に休養を取るようになったと聞きました。
今後、相撲界にも、こうした最先端の知識を取り入れていけば、より強い力士が育てられるのではないかと考えています」
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「より強い力士を育てる」ために荒磯親方はさまざまな新しい方策を考えている。「文藝春秋」12月号および「文藝春秋 電子版」に掲載されている「稽古を改革して横綱を育てたい」では、その革新的なビジョンが披露されている。
稽古を改革して横綱を育てたい