なぜ人類は空に飛び立つのか
「人はなぜ宇宙に行くのか」という問いに対して、油井は次のように答えるのだった。
「人間には活動の場を広げていく本能みたいなものがあると思います。もしその本能を社会が否定してしまえば、人類の存在意義が危うくなるのではないか、と私は思っているんです。
地球の全てを使い果たし全てを知り尽くしてしまい、ずっと同じような活動をしていたら、人類の未来はどうなるんだろう、という漠然とした不安があります。それがなくなってしまえば、精神的にも荒廃するように思います。文学も芸術も娯楽もどんどん内向きに衰退していってしまうのではないか、と。活動の場が広がる可能性や場があるからこそ、そこに夢を見出せるし、新しいことをしてやろうという気持ちも出てくる。だからこそ、人は宇宙に魅せられるのだと思います。
宇宙を見るとワクワクする人が多いのは、そこに無限の広さがあるからでしょう。無限の広さとは無限の可能性であり、宇宙には未来が広がっていると感じる。私はいつかは人間は遠くに行くし、そうでなければならないと思っています。資本主義も新たな価値や活動の場を見出していかないと成り立たないシステムであるわけです。人類が宇宙に行ける可能性を見出せれば、人類の未来は明るいし、そうでなければ衰退してしまう。
それに宇宙にいるとき、月を見たり、惑星の写真を撮ったりしながら、私自身がもっと遠くに行きたいと思った。とにかく遠くに行きたくてしょうがなかったんです」
人はなぜ宇宙へ行くのか――。
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