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──北條家は途中から径子さんと晴美さんが来て、呉空襲のあとには小林夫妻が来るので、人数が変わるじゃないですか。そういう意味でも、食卓の上はたいへんなのでしょうか?

片渕 いや、あの2人、どこで寝とるんじゃろう……と。

こうの 小林の伯父さんと伯母さんは、あそこで寝てるんじゃないですか?

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片渕 客間?

こうの たぶん居間じゃないですかね。あれ、どうかな?

片渕 四畳半の茶の間?

こうの そこじゃないですかね。

客間 「第11回 19年7月」より。 ©こうの史代/双葉社

片渕 いや、そうするとね、径子さんが六畳間を占有することになるんですよ。

こうの そっか。それはいっぱい使いすぎですね。

片渕 そうそうそう。

こうの いや、でも誰かが居間に寝ていたら、お義父さん(円太郎)が夜勤だからたいへんかもしれないですね。

片渕 そうなんですよ。お義父さんは広の十一航空廠に勤めておられて、決戦用戦闘機のエンジンをつくってるから、いちばんたいへんな時期なんですよ。だから夜勤明けで、しょっちゅう朝帰りしてるんですよね。

決戦用戦闘機 義父・北條円太郎が勤める広の第十一海軍航空廠では、この時期、誉二一型発動機(エンジン)を製造していた。ここでいう決戦用戦闘機とは、紫電二一型、すなわち紫電改である。日本海軍の局地戦闘機で、自動空戦フラップなど、新機軸を装備した最新鋭であった。松山の第三四三海軍航空隊などに重点的に配備され、主に本土防空に投入された。

こうの じゃあ、お義父さんが居間で寝てるんじゃないですかね。

片渕 あ、お義母さんと一緒にね。かもしれないですね。いちおう、お義母さんの布団を居間に敷いている場面もつくったりしているんです。まあ、第三者には、なんの話かわからないでしょうけど(笑)。

こうの すいませんね(笑)。

片渕 まあ、「この服があそこでこうなったんだな」とか「ここでこうなったんだな」とか、そういうのをずーっと追いかけるのが『この世界の片隅に』の読書みたいなところがありますから。

こうの 私は「着物には柄が入っていて描くのがめんどうくさい」という発見をしました。でも無地だと、寝間着とか喪服にしか見えないんですよ。

片渕 それを動かすのはすごくたいへんなんですよ。着物に柄が入っているとね、動かしたときに模様だけ服の上でどっか動いていっちゃったりするのを、なんとか食い止めなきゃいけなくて。すずさんのポスターのあの服だって、模様がすごい入っているんです。

こうの ええ、ええ。そうですね。