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「編集さんにもわからないように」こうの史代が語る『この世界の片隅に』にちりばめた“しかけ”

「この世界の片隅に」原作者と監督が語る漫画のこと、映画のこと#1

こうの せっかく出したんだから、いろいろとつなげたくなるんですよね。あのときに使ったやつあったから、これやっとくか、みたいな感じです。

片渕 なるほど。我々もできるだけ読み解こうと思って、たとえば、この人物があのとき着てた服がこの場面でこうなって、最後にはこうなっていく、みたいなのを追っかけて。さらに、「じゃあ、この時点ではどうなのかというのを入れちゃったら?」って、段階を増やしてちょっと膨らましているところもあります。

こうの ええ、ええ。ありがとうございます。

──監督、結局すずさんは服を何枚持ってるんですか?

こうの そんなんも調べてるんですか?

片渕 いま、にわかには答えられないんですけど、だいたい枚数は定まってるんですよね。逆に言うとね、それ以外のものを洗濯物で干せないんです。洗濯物を干してるシーンに、誰のかわからない服は出せないんですよね。ちょっと我々のほうで失敗したのは、茶碗の模様をそれぞれ決めたんですけど、「周作のお茶碗にいつもの柄が入ってない!」とかが出てきちゃって……。

周作のお茶碗にいつもの柄 楠公飯が配膳され、すず、周作、義父、義母で食卓を囲むシーンで柄が確認できる。 ©2019こうの史代・双葉社 / 「この世界の片隅に」製作委員会

こうの 茶碗の柄とかもそうだし、食器の大きさを合わせたり、全部の食器が乗るように食卓を描かなきゃいけなかったり。で、ひとりに何個(食器の数)って決まっているし、食卓を描くのは意外とたいへんじゃないですか?

片渕 幸いね、時局が深まると、食品自体がなくなるので、出てくる食器の数がすごい減るんですよ。

こうの あ、そうですね。

片渕 全員でおかずが漬物しかないとか、そんな感じになっていくので。だからそれはそれでやりやすかったんだけど、漬物が乗ってるお皿が、結婚式のときの一番大きな皿だったりして、大皿に漬物これだけ……っていうのが、豪華なのかなんだかわからないから、小皿に描き変えましょうとか。

こうの 皿だけでも豪華に、みたいな。

片渕 そうそう。そうやってお皿の数とか、着てるものの数と種類だとかを決めていって。最初は靴下の色も決めようと思ったんだけど、さすがにそれは無理で、でも靴下を何足持っているかは決めようと思ったんです。

靴下を何足 靴下に関しては、すずがヤミ市で「靴下だって三足買うたら千円にもなる時代が来やせんかね」とインフレによる物価高騰を嘆くシーンがある。これは昭和19年時点ではインフレ価格だが、平成19年の雑誌掲載時の読者にはデフレ価格になるというジョークにもなっている。映画公開(平成28年)後に、こうのは「いまだったらもっと安いですよね!」と話す。「第13回 19年8月」より。©こうの史代/双葉社

こうの 靴下はけっこう回転が早いかもしれないですよね。

片渕 回転は早いんだけど、戦時中はやっぱり入手が困難だったらしいから、繕いに繕って使ってたんじゃないかな。なるべく履かないようにするとか、寒いときだけ履くとか。