映画「この世界の片隅に」に30分の新作映像を追加した「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」が12月20日に公開となります。映画をより楽しむために『この世界の片隅に こうの史代 片渕須直 対談集』が発売されました。監督や作画スタッフがこだわり、苦労を重ねた“原作漫画のしかけ”についての対談を公開します。

©2019こうの史代・双葉社 / 「この世界の片隅に」製作委員会

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──こうの先生の原作漫画は、繰り返し読んでいると気づくような“しかけ”があります。「この人とこの人、同一人物だったの?」とか。ああいった“しかけ”は、どの段階で考えるんですか?

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こうの あれはわりと最初から考えています。今日は双葉社の編集さんが会場に来ているので、ちょっと言いにくいんですけど(笑)。最初から気づくような描き方をすると、「もっとわかるように描かないとダメです」って言われるんです。やっぱり最初に雑誌に載るときは、そのマンガのおもしろいところは前面に出したいところですからね。でもそうすると、肝心のテーマとのバランスが崩れる場合があるんですよね。だから、わざと編集さんにもわからないように描いておくんです。あとあと読者が気づいてくれればそれはそれで楽しいかな、くらいに思っています。いま“しかけ”と言われたようなことは、スルーしてもらえるように描いているんです。

祖母につくってもらった浴衣。「大潮の頃(10年8月)」より。©こうの史代/双葉社 

片渕 こうのさんの漫画は常にパズルみたいなところがあって、いろいろなところに“しかけ”が施されているのが魅力です。だから、いまこうのさんが「スルーしてもらえるように」とおっしゃいましたが、読者としてはそこまでスルーできないんですよ(笑)。1回目に物語を追うようにして読んだときには、たしかに気づかないんだけど、そのときに「あれ? なんか引っかかったんだけど、これなんだろう?」という違和感は残ります。だから2回目以降、すごく細かいところまで目を凝らして見ていくと、そのたびに発見があって「これとこれが、こういう関係だったのか!」とどんどんわかっていく……、みたいなのがあるんです。物語上のことも大事なんだけど、そういうところがこうのさんの漫画表現の柱になっているように思えるんですね。

ワンピースに仕立て直されるが、北條家の空襲の際に裾が焼けたため、このシーン以降、裾が繕われて登場する。単行本下巻のカバーイラストでも着ている。「第34回 20年7月」より。 ©こうの史代/双葉社

こうの そうですか?

片渕 『この世界の片隅に』も、そういう構造がすごく複雑にあるのが読んでいて楽しみなところなんですよ。

こうの 基本的に貧乏性なので、切れっ端だけ使ってあとはいらない、みたいなのができない性分なんです。

片渕 わかります、わかります。