是枝裕和監督の映画『真実』が10月11日から公開中だ。10月14日に行われた公開記念舞台挨拶で、「何とか無事に、この日を迎えることができました。ホッとしています」と語った是枝監督。フランスを代表する大女優・ファビエンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)が、自伝本『真実』を出版。お祝いのため、ニューヨークから久しぶりに帰ってきた娘・リュミール(ジュリエット・ビノシュ)がその内容に「デタラメじゃない。どこに“真実”があるのよ」とつめよるところから物語は動き出す。「今回は明るい読後感のものを作りたかった」という是枝監督の思いを聞いた。

是枝裕和監督

母親がフランス映画を好きだった

――是枝監督は、もともとフランス映画に対して興味や親近感はありましたか?

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是枝 圧倒的な映画体験みたいなものは全然なかったんですけど(笑)、母親がフランス映画を好きだったから。NHKで字幕付きで放送されていたモノクロ映画を、子どもの頃母親と一緒に観ていました。ジャン・ギャバン主演の『望郷』、それから『旅路の果て』。どちらもジュリアン・デュヴィヴィエという監督の映画です。『旅路の果て』は大好きでした。引退した老女優と俳優たちの養老院の話で、ドラマ「やすらぎの郷」のモチーフになっているんじゃないかな。母は、デュヴィヴィエ好きだったんですよ。僕らが学生の頃に好きになるようなヌーベルヴァーグの敵です(笑)。

――子どもの頃の原体験というのは、何歳くらいのことでしょうか。

是枝 小学校の低学年くらいだと思います。自分が意識的にフランス映画に接するようになったのは、大学生の頃。『緑の光線』や、トリュフォー最晩年の『隣の女』、ブレッソンの『ラルジャン』などに触れたのが20代でした。おそらくその時期に、リバイバルで公開されていたジャック・ベッケルの『穴』なんかを六本木にあったシネ・ヴィヴァンで観ている。第2期のフランス映画体験ですね。

 

――新作映画『真実』は全体のトーンが軽やかで、どこかフランス映画的でもあります。

是枝 『三度目の殺人』、そして『万引き家族』を経て、前作がバッドエンドだったとは思いませんが、今回は明るい読後感のものを作りたいなと。ルネ・クレールみたいな、幸せな感じが好きなんです。自然とああいう感じに辿りつけたら、っていう気持ちはあったと思います。