「ねえ、ドヌーヴどうだったのよ?」と希林さんに聞かれたら
――『こんな雨の日に』のイメージキャストとしては、女優に若尾文子さん、クローク係の妻を樹木希林さんで考えられていたそうですね。
是枝 そうです。最終的には、タイトルも舞台もキャストも変わっていきました。
――『真実』の撮影日誌でもある『こんな雨の日に 映画「真実」をめぐるいくつかのこと』の「おわりに」には、この映画と樹木希林さんについてこのように綴られています。
〈そうして、叶うなら、また一緒にお寿司でも食べながら「ねえ、ドヌーヴどうだったのよ?」という希林さんのちょっと意地悪そうな問いかけに、待ってましたとばかりに現場でのエピソードをあれこれと話したかった。〉
もし『真実』を希林さんが観たら、どんな感想を話されると思いますか?
是枝 何て言うでしょうね。うーん……。子ども(イーサンとビノシュの娘役を演じたクレモンティーヌ)のことは、「あの子かわいい」って絶対言うと思う。イーサンの演技もきっと褒めるでしょうね。
――例えば、どういうところを?
是枝 作品の中で自分の居場所をちゃんと見つけている。ただし、出過ぎないように。イーサンは自分が何を期待されているか分かって演じているから、ああいう居かたができる人のことを希林さんはすごく認めると思う。ドヌーヴさんは分からないですね。正直言うと、何て言うか分からない。
――なぜでしょうか。
是枝 本心を言わないだろうなと思います。日本でも、例えば10代から主演女優として作品を背負ってきて、ずっとテレビや映画の中央にいた大竹しのぶさんに対しては、嫉妬とは違うんだけど、自分とは違う人生の歩み方をした女優だと。自分は「そちら側」ではない生き方を選んだ、というところがあって、あまり語りたがらなかったから。
そういう意味で言うと、ドヌーヴさんはまさに日の当たるところを60年歩いてきた女優だから。「どうだったのよ」と聞かれるのは、おそらくもっと下世話な話ですよ。お芝居がどうのこうのじゃなくて。
――ちょっとワイドショー的な、私生活のことについて質問されたり。
是枝 そうそう。きっと、希林さんはそういうところから入るんじゃないですか。