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この手の詐欺のような商法を何度も見てきた

 世の中を見渡せば、自信満々に働いている人よりも、周りの顔色を見ながらおっかなびっくり働いている人のほうが多いのではないか。リッキーもそんな一人である。しかし、家族を支えていかなければいけないという責任感と、いつかはマイホームを持ちたい、という希望から、軽トラックを購入し、宅配の個人事業主となって一儲けしようという話に乗ってしまう。

 私は1990年代に物流の業界紙で記者として働いて以来、この手の詐欺のような商法を何度も見てきた。

 典型的な例は、「軽貨急配」という大阪に本社がある軽貨物輸送会社だ。自社ではトラックを持たず、個人事業主を集め、ドライバーに自社仕様のトラックを売りつけ、配送業務を委託するというやり方。ピーク時には年商400億円近くを売り上げた。しかし、結局、2011年に20億円近い負債額を抱え倒産する。その強引な個人事業者の募集方法から、詐欺まがいの商売という声も少なくなかった。

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 ヤマト運輸や佐川急便のような宅配大手でも、正規のドライバーでは運びきれない部分を下請けの個人事業者に外注している。

photo: Joss Barratt, Sixteen Films 2019

1日150個の配達でようやく生活ができる水準

 私は『仁義なき宅配』(2015年、小学館)という本を書くため、ヤマト運輸の下請けの個人事業者の軽トラックの助手席に横乗りさせてもらったことがある。菊池次郎(仮名)は朝7時からヤマトの配送センターで荷物を積み込み、夜9時ごろまで配達を続けた。2014年春のことである。

 1個運べば、150円が菊池の手元に入ってくる。

 1日100個を運べば、1万5000円の収入となる。14時間労働なら、時給は1000円強。だが、そこから車両代やガソリン代、保険代などの必要経費を差し引くと時給は800円にまで下がることを教えてくれた。

「1日150個の荷物がコンスタントに運べるようになってようやく生活ができる水準なんですよ」と。

photo: Joss Barratt, Sixteen Films 2019

 その菊池に、1日200個を配るという夏の繁忙期にもう一度、横乗りさせてほしい、とお願いした。忙しいので、もう少し待ってほしいという連絡を何度か受け取った後、ようやく明日が横乗りの当日という日に、菊池の妻からメールをもらった。

「主人ですが、実は昨日、クモ膜下出血で病院に搬送されてしまいました。そのため、申し訳ございませんが、今回の横乗りはキャンセル願います。主人に代わり、ご連絡まで」

 幸いにも菊池は、一命をとりとめ、退院後は後遺症もないぐらいに回復した。しかし、個人事業者であった菊池に、ヤマト運輸から見舞金などが支払われることはなかった。個人事業者とは、使い捨てのコマに過ぎないのだ。