ケン・ローチ監督最新作『家族を想うとき』(原題:Sorry We Missed You)で描かれる宅配便ドライバーの姿と表情を、ユニクロやヤマト運輸、そしてアマゾンに潜入取材を続けてきたジャーナリスト・横田増生さんは、これまで取材を通して出会った労働者たちと重ねて観たという。
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「いつか稼げる仕事に就き、マイホームを持ちたい」
舞台はイギリスの田舎町のニューカッスルだ。
4人家族の大黒柱であるリッキーは2008年のリーマンショック以降、この10年、何をやってもうまくいかない。職を転々とし、借金を抱え、いつ追い出されるのか、とびくびくしながら借家住まいを続けている。
「いつか稼げる仕事に就き、マイホームを持ちたい」
と思っていたリッキーに巡ってきた仕事は宅配便のドライバーだった。
しかし、宅配事業者に雇われるわけではない。個人事業主として宅配便の配送を請け負うというもの。その労働環境には、保険もない、病休も年休もない、退職金もない。配送するトラックさえ自分で用意しなければいけない。つまり、会社の従業員なら享受できる社会保障がなに一つないのだ。配送した個数に応じて料金が支払われるだけ、といういたってドライなシステム。
便利なネット通販が隆盛を極めているのは、イギリスも日本も同じである。
イギリスで多くの荷物を宅配業者に出荷するのは、アマゾンやアップル、サムソンやZARAといった勝ち組の国際企業だ。
ちょうど、この原稿を書いている時、宅配のドライバーが、我が家にアマゾンで注文した文房具を運んできてくれた。クリスマス仕様の箱には、「あなたのいいもの、あの人のいいもの、みつけよう」、「一年分の『ありがとう』を贈ります」と書いてある。ご丁寧にも、荷物を受け取った直後に、「ご注文商品の配達が完了しました」というメールまで届いた。
映画の冒頭で、押出しのいい配送センターの現場監督に、「いいか、会社に雇われるわけじゃないんだ。俺たちと一緒に働くんだ(You don’t work for us. You work with us.)」と、言い含められ、「ああ、長い間こんなチャンスを待ってた……」と気弱そうに答えるリッキーを見ながら、私は、これまで似たような表情をした労働者に何人も会ってきたな、と思った。