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「1日150個の配達でようやく生活ができる」 ヤマト下請けの個人宅配便ドライバーが病院搬送されるまで

映画『家族を想うとき』

2019/12/15
note

1日休めば、約1万4000円の罰金

 映画の主人公のリッキーにも、次々と難題が降りかかる。息子が通う高校からの呼び出し、忙しさから疎遠になっていく妻との関係、それを修復しようとする娘のある行為――。

photo: Joss Barratt, Sixteen Films 2019

 しかし、リッキーの生活は、膨大な配達のノルマと時間指定に縛られ、身動きが取れなくなる。時間に追われるがゆえ、昼食をとる時間もなくなり、ついにはトイレに行く時間もなくなり、尿瓶(しびん)を使うまでに追い込まれる。

photo: Joss Barratt, Sixteen Films 2019

 個人事業主として、一旗揚げるつもりが、1日休めば、それが病気であろうと、家族のためであろうと、100ポンド(約1万4000円)の罰金が科せられ、配送に使うスキャナーを暴漢に壊されると、1000ポンドの弁償を求められる。ドライバーとなり家族を支えるどころか、借金は膨らむばかりで首が回らなくなる。

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 このように書き連ねれば、陰鬱たる映画なのか、と思うかもしれないが、さにあらず。苛烈な労働環境を描くケン・ローチ監督の視線は、どこまでも温かく、その視線は低い。

photo: Joss Barratt, Sixteen Films 2019

 映画を観やすくしている要素に、妻のアビーの存在がある。訪問介護士として働くアビーは、金銭的に苦しい生活の中でも明るさをたやさない。訪問先で、自分でトイレの後始末ができなくなったと嘆く男性に、「誰だって、歳を取るものなのよ」と声をかけ、アビーにお礼の言葉を繰り返す女性には、「あなたが私に教えてくれることのほうがずっと多いんだから」と話しかける。

 悲しい場面で映画が終わることは、ローチ監督の前作『わたしは、ダニエル・ブレイク』(2016年)と同じだ。その辛いエンディングは、イギリスの苛烈な労働環境へのローチ監督のささやかな抗議声明のように、私には見える。

潜入ルポ amazon帝国

横田 増生

小学館

2019年9月17日 発売

INFORMATION

映画『家族を想うとき』
12月13日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
© Sixteen SWMY Limited, Why Not Productions, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2019
https://longride.jp/kazoku/

「1日150個の配達でようやく生活ができる」 ヤマト下請けの個人宅配便ドライバーが病院搬送されるまで

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