1ページ目から読む
2/2ページ目

牧元 博多のあのカリッカリの鶏皮の焼き鳥とかもいいよね。

渡部 大井町に進出した「博多かわ屋」に行くと10本とかぺろりと食べちゃいます。

牧元 肉と言えば、牛肉の話なんだけど、これまで消費者はずっと肉を取り巻く様々な言葉に踊らされてきたと思うんですよね。でも、僕は赤身だろうが、霜降りだろうが、ブランド肉だって、何でもいいと思う。それは食べる人の好み。それよりもその肉が健康な牛でちゃんと育てられているかのほうが大事なんだよね。さらには、この肉にはこういう焼き方が一番合うと思って、焼いてみましたというワザとセンスのある店も増えて欲しいと思います。

ADVERTISEMENT

小石原 あまりに安すぎる肉もいかがなものかと思いますね。というのも現在、子牛の頭数も減り、経済的に厳しくて廃業する子牛農家も増えているんです。そういう牛肉の肥育を取り巻く実情と照らし合わせると、安価な肉に疑問を感じてしまうんです。真っ当なものに正当な対価を払わないと、牧元さんのおっしゃる健康ないい肉が減っていくと思います。

谷中「肉と日本酒」の肉プレート

牧元 肉は日本だけじゃなく世界的にも高騰してますからね。

渡部 それは昨今話題になった熟成肉や赤身肉の反動があるんでしょうか?

牧元 ブランド肉やA5がいいとかいう話ではなく、正しい熟成肉とは? 本当に旨い赤身肉は? いい霜降りとは何だろう? ということをちゃんと考えないと、ずっと言葉に踊らされ続けると思うんですよ。牛肉って高級品だから舞い上がりやすいんだよね(笑)

小石原 ですよね。大理石のようなサシが入った肉の断面をうれしい!って単純に喜んじゃうのも仕方ない部分はあると思いますね。

牧元 だけど、牛肉を食べだすと、本当のうまさって見えてくるんだよね。

渡部 具体的にそういう取り組みを先取りしているお店ってあるんでしょうか?

牧元 ブランド肉からノーブランド肉までいろんな肉を揃えて、ワインみたいにテイスティングさせてくれたらわかりやすいかもしれないね。

小石原 麻布十番の「肉とスパイス JINDARI」では、高橋ファームの襟裳短角と和歌山の熊野牛などのいろんな部位を揃えていて、グラム単位で選べるんですよ。部位で売る肉は炭焼きなんですけど、もつ料理がおもしろい! ホルモンをインド料理の手法でスパイス仕立てにしたり、もつのスパイス料理とステーキのプレゼンテーションのやり方が新しいと思いますね。

渡部 それと平行して、「立喰い焼肉 治郎丸」みたいな一人焼肉店や立食い焼肉店が進出してきたように、もっとラフで気軽に肉を食える店が増える傾向もあると思いますね。人件費ゼロ! だから安い! みたいな店ね。酒は自分でセラーから運んでくるシステムの谷中に出来た「肉と日本酒」とか。

牧元 曙橋の「ヒロミヤ」もそうだね。

小石原 ヒロミヤはもう3号店まで出来ちゃいましたからね。セルフサービスにするなど、肉以外の部分でコストを下げる努力をして、手頃な価格で肉を提供してくれる店が増えるのはいいことだと思う。

渡部 昨年くらいから、「何処の誰々が育てた牛」といったように、食通の間で生産者が注目され始めましたけど、それがもっと一般にも広まっていく流れはあると思いますね。川岸牧場さん、福永畜産さん、田村牛もそうですよね。

小石原 最近、近江牛の木下牧場もいいですよ。中野にオープンして早くも人気のフレンチ「松㐂」で見かけましたし、京都の「ル・キャトーズィエム」でも扱っているようです。

牧元 熊本の東海大学が育てているあか牛も本当に素晴らしい。ここまで育てるまで、泣ける話がいっぱいあるんだよ。駒沢のイタリアン「イル・ジョット」で食べることができますよ。

渡部 そういった生産者が、どのような素晴らしい環境でちゃんと育てているかということを知れば、高い理由がわかりますよね。

小石原 そう、納得できる。

牧元 あと、北海道は、これからおもしろくなるよ~! 十勝若牛という早期肥育技術で生産されている赤身肉があるんだけど、これがいいんだよ。またオークリーフ牧場の仔牛も素晴らしい。今までの輸入の仔牛は真空パックで送られてくることが多いので、大人の牛と違って組織が弱いからドリップが出やすい。だからパサついたり味が薄いという印象を持たれがちなんだよね。でもオークリーフ牧場の仔牛はきめ細やかな肉質で旨い。

小石原 肉といえば、最近ジビエも増えてきていますよね。渋谷二丁目の「ラチュレ」は、シェフ自ら狩猟免許を取得して、ジビエに特化したメニューを用意しています。

牧元 扱う店が増えたよね。でも鹿に関しては送り出し側と、受け手が噛み合ってない部分があると思うんだ。

小石原 駆除動物でもありますからね。駆除はしたものの、その時点でちゃんと処理しないと精肉としては不十分ですもんね。

牧元 そういった部分も含めてきちんと体制が整えられれば、変わると思う。今までは漫然と「鹿を食う」というスタンスだったけど、これからは2歳雌とか、3歳雄とか、そういった選び方になっていく可能性はあるね。

 十勝の猟師でシャルキュトリの製造とかを行っていた佐々木さんが松涛に出した「エレゾハウス」で食べ比べをしたときは、その食感の違いに驚いたね。処理を完璧にされた美味しい鹿って、透明感があるんだよね。

小石原 ブランド蝦夷鹿とか出てきそう(笑)。

写真撮影禁止の浅草「鷹匠 壽」

渡部 鴨もおもしろいですよ! すでにレジェンドですが、浅草の「鷹匠壽」が鴨ブームの火つけ役だと思いますが、中目黒の「鴨とワイン Na Camo guro」、三軒茶屋「鴨すき家 とりなご」みたいに安くて美味しい店も出来ています。
 鴨は網捕りから、背撃ち、胸撃ち、首撃ちとかいろんな捕り方があるんです。胸や首はわかるけど、背撃ちってどうするのかと思って、背撃ち名人に聞いたことがあるんですよ。そしたら、鴨を見つけたら「わっ!」と驚かして、逃げたところを背中から撃つらしい(笑)。そのほうが、血が回るまでバタバタさせるから、鉄分を感じられて旨いという。本当に「おいしい」の基準はさまざまですよね。

牧元 熊も増えたよね。滋賀の「比良山荘」「徳山鮓」で熊鍋の美味さを知った人たちの口コミで流行りだしたんだと思うけど、値段もどんどん上がっている。今、キロ1万5000円前後だけど、もっと上がると思うよ。熊の美味さは、まず脂身にあるよね、雪のように純白で甘く融点が低く、すっと軽く溶けていく、またいいダシが出て、スープの深みが増していくのも特徴ですね。

小石原 そうそう、アナグマ肉料理店「むじなや」も渋谷にできました。クセがあるかと思いきや、鍋でいただいたら意外なほどあっさりしていて、脂もきれいな味わいでしたね。この店は飲食店向けの加工をする長崎県島原市の解体処理施設から仕入れているんですが、「むじなや」のようにアナグマを扱う飲食店が増えて、こちらの処理施設の販路が広がった結果、捕獲量も急増したということでいいこと尽くめですよね。

渋谷「むじなや」のむじな鍋

牧元 アナグマは歩留まりも少ないしお金になりにくいから扱う処理場が少なかったんだよね。でも、ここみたいにハンターから飲食店までの流通のルートが確立されればジビエがもっと活性化する。鹿、鴨、イノシシに関しては、ぜひとも早くそういったシステムが整備されてほしい。

渡部 肉の話はなかなか終わらないですよね。では、魚の話は次回にたっぷりと(笑)。

構成=永浜敬子(フリーライター)