ラグビーW杯2019で日本代表は初の8強という結果を残し、日本中がその快挙に沸きました。代表メンバーの半数15人が海外出身だった中で、普段は温和な表情を浮かべる「グーくん」こと韓国出身(日本国籍を取得)の具智元選手のスクラムと涙を記憶している人は多いはず。具選手にとっての初めてのW杯は、一体どんなものだったのか。聞き手は『国境を越えたスクラム』の著者であるノンフィクションライターの山川徹さんです。(全3回の2回目/#1、#3へ)
◆
アイルランド戦は、ラグビー人生で一番うれしかった勝利
――具選手が出場したW杯5試合のなかで、もっとも印象に残った試合は第何戦でしたか?
具 2戦目のアイルランド戦です。開幕前、アイルランド代表は世界ランキング1位だったでしょう。そのアイルランドからW杯で勝てた。ぼくのラグビー人生で一番うれしかった勝利でしたね。
――アイルランド戦といえば、前半35分のプレーが印象的です。アイルランドスクラムを押し込んで反則を奪いましたね。あのプレーが試合の流れを変えました。
具 アイルランドのスクラムが強いことも、押してくることも試合前から分かっていました。日本戦の前に行われたスコットランドとの試合でも、スクラムを押していましたからね。
かといって不安はありませんでした。自分たちが厳しい練習のなかで、積み重ねてきたスクラムに自信を持っていましたから。絶対に押し勝てると考えていました。
――何か対策を立てていたのですか?
具 アイルランドのスクラムは、1番の選手を前に押し出して、スクラムの左側から相手のバランスを崩そうとしてきます。そこでポイントになるのが、相手の1番とスクラムを組み合う3番です。
――ということは、3番の具選手が相手に組み勝たなければならなかったのですね。
具 そうです。もちろんぼくが押されずに耐えることも大切なのですが、それ以上に重要だったのは、8人のフォワード全員が一緒に組む意識を持つこと。海外では、個々のパワーにまかせてバラバラにスクラムを押してくるチームが多い。身体の小さい日本代表が、パワーに対抗するには、スクラムを組む8人が結束するしかない。だからフォワードの7人の力を3番に集中させる。そこで3番が耐え切れれば、逆に押し返せると考えていました。