2019年の流行語大賞にも選ばれた「ONE TEAM」。韓国出身で、日本国籍を取得した具智元選手は、「W杯で日本の雰囲気が一気に変わりました」と話します。海外出身選手が半数を占めた日本代表が、どのような思いで「日本のために」と戦い、「結束」を強めていったのか。聞き手は『国境を越えたスクラム』の著者であるノンフィクションライターの山川徹さんです。(全3回の3回目/#1、#2へ)
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韓国にいる両親に送ったメッセージ
――具選手は、今年7月の宮崎合宿で右手の甲を骨折し、W杯の前哨戦ともいえるパシフィック・ネーションズカップのメンバーから外れていました。日本代表のなかでも激しいポジション争いがあったそうですが、どんな思いでW杯のメンバー発表を待っていたんですか?
具 ケガがどのくらいで完治するのか分からなかったので、不安はありました。でも、いま、やれることをやるしかない。不安を自信に変えてチームに戻れるように、と走り込んだり、チューブを使ったウェイトトレーニングをしたりしていました。ケガもあったので、W杯のメンバーに選ばれたときは素直にうれしかったですね。高校時代から日本代表としてW杯に出ることを目標に、ずっとがんばってきましたから。
韓国にいた父と母には合宿先の北海道から〈W杯の日本代表メンバーに選ばれた〉とメッセージを送りました。そうしたらすぐに電話をくれて、とても喜んでくれました。とくに母は、手の甲を骨折したと聞き、涙を流すほど心配してくれたので、いい報告ができて安心しました。父と母は「ケガをしないで、いいW杯にしてほしい」と話していましたね。
「日本代表の3番は、俺の後輩なんだ」
――W杯に向け、元韓国代表のお父さんからアドバイスはありましたか?
具 昔は「スクラムだけを組むスクラムマシーンにならずに、フィールドプレーも意識するように」とか「スクラムをもっと低く組むように」とかアドバイスを受けていました。でも、日本代表としてプレーするようになってからは、アドバイスというよりも、純粋に応援してもらえるようになりました。父は南アフリカ戦だけは仕事の関係で現地観戦できなかったけど、残りの4試合はすべてスタジアムで応援してくれました。
――韓国ではどんな反応があったのでしょう。
具 実は、そんなに反応はなかったんです。韓国ではラグビーがあまり盛んではないので……。ただ、韓国のラグビー仲間やラグビー経験者からは「感動しました」「よくやってくれた」とたくさんの声をいただきました。まさか決勝トーナメントに進出するなんて、とみんなびっくりしていました。以前、ホンダに所属していた韓国人選手が「日本代表の3番は、俺の後輩なんだ」と自慢しているとも聞きました。ぼくは直接、お目にかかったことはないのですが、がんばっている韓国人のラグビー選手たちに喜んでもらえて本当によかったです。