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妹を殺された私が元受刑者を雇用し、社会復帰の手助けをする理由

著者は語る 『お前の親になったる』(草刈健太郎 著)

『お前の親になったる』(草刈健太郎 著)

「事件から3年間くらいは、どうやって相手を殺してやろうか、そればかり考えていました。ただ、何年も加害者を憎み続けることってできないものですよ。憎しみが消えてからがまた地獄でね。今度は、妹が殺されたのは、自分のせいなんじゃないかって自責の念に囚われる。これがまた苦しいんですわ」

 関西で建設業を営む草刈健太郎さんのもとに、妹の死の知らせが入ったのは2005年12月。恋人のアメリカ人男性に殺されたという。事件を記憶する読者も多いだろう。

「妹をなくした悲しみも癒えず、日々の仕事に追われているなか、起こったのが東日本大震災でした。私は当時、青年会議所のメンバーでもあったので、被災地支援に取り組みました。発生当初はボランティアという意識でしたね。地元で集めた支援物資をとにかく届けていた。でも、やっぱり私は商売人なんですよね。ビジネスマンの立場で被災地のためにできることは、もっと別のことかも知れない。物資を届けて、はいおしまい、じゃなくて、かかわる人間にしっかり利益がでるような仕組みをつくらなければいけないと思いました。仲間に全国チェーンの飲食店の経営者もいたので、被災地の食材を使ったメニューを全店舗で提供するよう働きかけてみたりしました。そのメニューは、飲食店の看板商品になって、いまでもお客さんに人気なんだそうです。利があったからこそ、私も仲間も継続的に被災地支援ができているわけです。きれいごとに終始すると長続きしないんでしょうね。妹の死で自分も家族も被害者という立場になりました。そうでなかったら、ここまで被災地支援を続けていられたかどうか自信がありませんね」

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 家業を続け、社会貢献を重ね、人間の縁の尊さを実感する矢先のことだった。

「お世話になっている社長さんから、『職親プロジェクト』手伝ってくれへんかって電話がありまして。被災地復興に力を貸してくださっている人だったので、とても断れない。『いいですよ』って即答ですわ(笑)」

 職親プロジェクトとは、刑期を終え出所した元受刑者を雇用し、社会復帰の手助けをする事業のこと。本書は草刈さんがこの取り組みにいかに関わっているか、自身の歩みを記しつつ、詳細に記録したドキュメント。犯罪被害者の草刈さんにとっては酷な依頼だったはずだが、持ち前のビジネスマインドが遺憾なく発揮され始める。

草刈健太郎さん

「葛藤はありましたけど、刑務所視察したり、お役所の社会復帰プログラムを見ているうち、こらアカンわと火がつきました。私が雇い入れた元受刑者たちも色々でして。真面目に働く子もいれば、面接の翌日に連絡がとれなくなる子もいる。若い子にしてみれば、建設業は必ずしも魅力的ではないのも知っています。『もっとカッコいい仕事がしたい』と思うのも当然ですよね。でも、いまのプロジェクトだと“地味”な仕事が多いのも事実。受け入れ先の業種を増やしていくのも必要でしょう。はやりのITでもいいし、なんなら夜の水商売だっていいはずです。刑務所の在り方も更生に最適ではありません。刑罰とは別の、たとえば職業訓練を本格的にやったりカウンセリングも充実している、社会復帰の前段階の更生のための中間施設も本来必要なはずなんです。妹を殺された私の立場で変な熱の入れようにみえるかもしれませんね。でも、元受刑者を見ていると、こいつらも家庭環境であったり世の中の仕組みの被害者なのかも知れないと時に思うことがあります。妹のおかげでいろんな縁が生まれていま生きています。この取り組みは妹と一緒にやっているように思えるんですよ」

くさかりけんたろう/1973年、大阪府生まれ。近畿大学卒業。カンサイ建装工業株式会社をはじめ数社の代表取締役。東日本大震災の被災地支援、発展途上国支援、「職親プロジェクト」など多くの社会支援事業に携わっている。

お前の親になったる 被害者と加害者のドキュメント (ShoPro Books)

草刈 健太郎

小学館集英社プロダクション

2019年10月10日 発売

妹を殺された私が元受刑者を雇用し、社会復帰の手助けをする理由

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