冬の軽井沢。雪景色のなかで、男女四人の思いが錯綜するドラマが完結した。
最終回の松たか子は美しかった。巻幹生(まきみきお)(宮藤官九郎)と離婚して、巻真紀(まきまき)から早乙女(さおとめ)真紀の旧姓に戻ったが、それは本名でなく、他人から買った戸籍名だった。
住民票や免許証の不正取得で逮捕、起訴されたマキは保釈されたが軽井沢に戻らない。東京でひっそり暮す彼女の髪には白いものも混じるが、諦念の宿る顔に似合いエロチックにさえ映る。義父殺しまで週刊誌は騒ぎたてる。
弦楽四重奏団(カルテット)は休業状態。残された家森(高橋一生)、すずめ(満島ひかり)、別府(松田龍平)がマキを探し、目星をつけた団地で演奏を始める。弦の微かな音が届いて四人は再会する。マキをすずめちゃんがハグ。そこに家森も加わっての三人ハグにジーンとなった。
脚本家と制作陣の意気込みは初回から伝わった。ネットの熱狂も凄まじかった。
私はいまひとつノリきれなかったけど。「この伏線は、どう回収されるか?」。それがそんなに重大か。例の唐揚げレモン問題も退屈だった。ドラマが動いたのは、マキの失踪した夫が登場する第六話だ。夫婦の思いが、どうネジれていったか。交互に交わす会話が劇に弾みをつける。
さらに小悪魔ギャル、吉岡里帆の腹黒さが、ドラマを加速させた。一件落着。誰もがほっこりしたとき、マキの名前が架空だとわかる。サスペンスもフル回転である。逮捕と勾留、裁判を経ての、最終回での再会だ。
マキを軽井沢に連れ戻してカルテットは再結成された。食卓で唐揚げにパセリを添えた高橋一生が、ここでまたウンチクを。パセリにどんな言葉をかけるべきか。小さく「センキュー、パセリ」とマキ。「そう、サンキューパセリですよ」。思わず楽しくなって笑った。私が坂元裕二の世界になじんだのか。脚本、俳優、制作陣が一体化し、ドラマが熱く、しかもスムースに稼動してきた故なのか。
大ホールでの演奏会。第一曲目にマキはシューベルトの「死と乙女」を選ぶ。義父殺しの疑惑にあえて対抗した選曲か。なぜ、この曲を。すずめの問いに答えるマキの表情が素晴らしい。軽井沢を舞台に『風立ちぬ』を書いた堀辰雄はシューベルト「冬の旅」を愛聴したという。四人の男女の愛と、奏でる弦の音、そして雪に包まれた冬の軽井沢が、ドラマの主人公だ。
▼『カルテット』
TBS 火 22:00~22:54