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綾辻行人デビュー30周年「常に新しいことをやっていたい」

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撮影/大坪尚人

 今年、デビュー30周年を迎えた綾辻行人さん。そのキャリアの総集編ともいえる『人間じゃない 綾辻行人未収録作品集』が刊行された。

 1993年~2016年に発表の5編を収録。『人形館の殺人』後日譚だったり『深泥丘奇談』番外編だったりと、他の長編やシリーズとリンクしていて、綾辻さんのエッセンスが詰め合わされている。もちろん単独でも楽しめるのでビギナーにもおすすめだ。

「意図したわけではないのですが、書いた時期も作風もばらばらで結果的に30年を網羅する本になりました。年代順に並べた中で最初の『赤いマント』は僕には珍しいミステリ短編で、文体も今とは違うから、手直しにちょっと苦労しました。2000年に始めた『暗黒館の殺人』の連載でスキルアップして、文体が安定していったように思います。なので、以降に書いた他の短編はそれほど手を入れずに済みました。作家としてキャリアを重ねるというのは自分の文体を発見、発展させていくことなんでしょうね」

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 2006年に書かれた「洗礼」には特別な思いがある。

「この年、デビューからお世話になった編集者の宇山秀雄さんが急逝されて、もう何も書けなくなるんじゃないかと思うほどショックでした。そこを他の編集者に励まされて、犯人当て小説に託す形で書いた追悼小説なんです」

講談社 1550円+税

 現実と虚構がクロスオーバーする世界で、語り手「綾辻行人」の決意に胸を打たれる。デビュー当時の思い出は?

「まだ大学院生でしたから京都大学近くの進々堂という喫茶店で宇山さんと待ち合わせて。開口一番『あなたの原稿をとても気に入った。ただし、私の作った本は売れたことがありません』と(笑)。でも初版2万部ですぐ重版がかかった。こういう小説が待たれていたんだなと思いました」

 まさに『十角館の殺人』は日本のミステリシーンを一変させた。綾辻行人、有栖川有栖、法月綸太郎といった作家達が牽引したムーブメントは「新本格ミステリ」と呼ばれ一大ジャンルに。つまり、今年は新本格ミステリの30周年でもあるのだ。メモリアルイヤーを盛り上げる特設サイトなども用意されている。

 一方で綾辻さん自身はジャンルにとらわれず幻想、ホラーと作風を広げてきた。特に、2006年に連載開始、後に映像化もされた『Another』は転機となったという。

「サイン会に若い人が並んでくれるのはあの作品のおかげ。ミステリという型についているファンがいるのも解っていますが、自分としては常に新しいことをやっていたいんです。思えば色んなことをやってきたなぁ。自分ではいつの間にか30年という感じですが、のろのろとでも長く続けていると何とかなりますよ、という励みになれば(笑)」

あやつじゆきと/1960年京都府生まれ。87年に『十角館の殺人』でデビュー。92年『時計館の殺人』で日本推理作家協会賞長編部門受賞。近刊に『どんどん橋、落ちた〈新装改訂版〉』など。特設サイト(http://kodansha-novels.jp/1702/ayatsujiyukito/)では30周年関連の情報も随時更新。

人間じゃない 綾辻行人未収録作品集

綾辻 行人(著)

講談社
2017年2月24日 発売

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綾辻行人デビュー30周年「常に新しいことをやっていたい」

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