二〇一七年は嫌な年だ。大好きな役者の訃報が続く。今度は渡瀬恒彦――。本連載でも折に触れて取り上げてきたが、筆者の中で現役では五本の指に入る、憧れの人だった。
そこでしばらくは、彼の出演作品を取り上げていきたい。
渡瀬は東映の若手時代「狂犬」の異名で知られていた。どこかふてくされ、目をギラつかせて牙を剥き出しにする――そんな役柄が多かったというのもある。が、それ以上に「狂犬」ぶりを見せつけたのは、出演作で繰り広げられてきた「身体を張った命知らずのアクション」の数々である。
ドアのないボロ車でカーチェイスに臨んだ『暴走パニック 大激突』、猛スピードで走る車のドアにしがみつき長い距離を引きずられた『実録外伝 大阪電撃作戦』、そしてなんといっても凄まじいのが、今回取り上げる『狂った野獣』だ。
渡瀬が演じる宝石強盗は無事に計画を成功させ、路線バスに乗り込む。だが、そのバスを逃亡中の銀行強盗二人組がジャック、渡瀬は宝石を置いたまま降ろされてしまう。
宝石を取り返すべくバスをオートバイで追うことになるのだが、ここで渡瀬が見せるアクションが強烈だった。
オートバイの後部座席から並走するバスに飛びついて、窓枠にしがみつく。そして、今度はその窓からバスの中に乗り込んでいくのである。この間、バスは走行中であり、もちろん渡瀬はスタントを使っていない。一つ手違いがあるとすぐさま命の危険にかかわる撮影といえる。さらにこの後の場面では、渡瀬は自らバスを運転、そのまま横転させるという、これまた危険極まりない撮影に挑んでいる。
「主役自らが命がけのアクションをする」ケースは、東映には千葉真一という先例がある。といっても、千葉には学生時代の体操競技で培った身体能力というバックボーンがあった。が、渡瀬はそうではない。あるのは、度胸一つ。それだけに、中島貞夫監督は心配して「主役なんだからスタント使いなよ」と常々言っていたという。が、渡瀬は譲らなかった。「俺には身体を張るしかないんだよ」。当時、演技に自信のなかった渡瀬にとって、身体を張ることだけが役者としての武器だったのだ。
そして、こうした渡瀬の命知らずのアクションにより、本作は低予算にもかかわらずそれを全く感じさせない、スリルに満ちた生々しい迫力あふれる映像に貫かれることになった。身を削ってでも面白い映画にしてやるという渡瀬の心意気――それが本作はじめこの時期の彼の作品に異様な熱気を与え、今もなお観る者の心をときめかせてくれる。
若き日の渡瀬の躍動を、改めて目に焼き付けてほしい。