1981年作品(112分)/KADOKAWA/1800円(税抜)/レンタルあり

 渡瀬恒彦のフィルモグラフィを振り返る上で欠かせないのは、角川春樹が率いていた時代の角川映画への出演だ。

 初期の超大作(『戦国自衛隊』)、中期のアイドル映画(『セーラー服と機関銃』『愛情物語』)、ハードボイルド(『化石の荒野』)、末期の角川監督作品(『天と地と』『REX~恐竜物語』)……、絶えず主要キャストとして出演を続けた渡瀬こそ「ミスター角川映画」と呼んでいい存在だ。

 特に、今回取り上げる『セーラー服と機関銃』での渡瀬が、とにかくカッコいい。

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 物語は、ヒロインの女子高生・星泉(薬師丸ひろ子)が、ヤクザの組長だった遠戚の死去に伴い跡を継ぐところから始まる。渡瀬が演じるのは彼女を支える若頭・佐久間だ。

 武骨で無口でぶっきらぼう、そして全身からピリピリした殺気を放つ――そんな佐久間は、東映で「狂犬」として活躍していた男にまさにピッタリの役柄といえる。

 序盤から、渡瀬の魅力が爆発している。泉に「お迎えにまいりました」といきなり有無も言わさず車に連れ込む校庭での初対面の場面。組長襲名を頼まれて当然のように断る泉に対して「ご心配なく。組長に年齢・性別の制限はありません」と理不尽に言い放つ場面。いずれも「さすが渡瀬」という押し出しであった。

 しかも、佐久間はただ強面なだけの男ではない。組事務所が銃撃された際には、すぐさま泉を「お姫様だっこ」、自らの身を挺して彼女を守るなど、あらゆる局面で頼りになるのだ。そして、渡瀬の低音ボイスと男の色気たっぷりの表情により、佐久間の男臭い言動の全てが様になっていた。

 それだけでもたまらないのだが、本作の渡瀬はさらに「その上」を見せてくる。雨に打たれながらヤクザの内面の弱さを泉に吐露し、「分かんねえっす、俺には!」と叫ぶ場面の切なげなシルエット。あるいは、敵に囲まれて弱気になったところを励ましてくれた泉に「惚れましたよ」と言う際の、なんともいえない優しげで柔らかい口ぶり。ただでさえ男らしいカッコよさに溢れる上にそうしたギャップも加わったことで、こちらは女の子のような心境にさせられて胸がキュンとしてしまう。

 だからこそ、唐突とも映りかねないラストの泉とのキスシーンに「そりゃ彼女もキスしたくなるよな」という説得力が与えられ、同時にそのシチュエーションの哀しさが胸に迫ることになった。そして、観る側は一段と渡瀬のことが好きでたまらなくなってくる。

 渡瀬は本作にどのような想いで臨み、いかに役作りしたのか。角川との仕事はどのような位置付けだったのか。是非うかがってみたかった――。