『絆~走れ奇跡の子馬~』はすごかった。福島の競走馬生産牧場の一家、父が役所広司、母が田中裕子、娘に新垣結衣、このメンツだけ見ると「ありふれすぎた」ドラマなんだ。キャストだけでなく内容もドのつくほどベタ。震災がらみの牧場の話で、フジテレビあたりでやったらと想像するだけでゲンナリするような。

 しかしNHKだ。見ているとどんどん胸が粘土でも詰められたような重さにじわじわとしめつけられる。何しろ牧場一家のリアリティのはんぱなさ。競馬ファンで北海道の小規模個人牧場を見学に行くような人ならわかると思うけど、あの役所広司のたたずまい。実在の牧場主ではないのか。口の重さ、ヘンクツさ、陰気さ、作業でいつも土と藁っぽいもんで、地顔はわりとハンサムなのにそれがさっぱりわからなくなってるおじさん。多いんですよこういう人。震災で息子を失い家族も牧場も壊れそうになるのを、このヘンクツな牧場主が必死に育てる一頭の子馬とともにふたたび家族が一つに……って、このベタすぎるストーリーが、あまりにリアルな役所広司およびその一家のせいで、自分の家族か近い親戚の話みたいに重苦しい。すごいな役所広司。田中裕子もまさに「牧場の疲れた奥さん」。新垣結衣も、生産牧場の娘によくいるタイプの顔で、画面ではあまり美人にも見えない。「こんなカワイコちゃんいるわけねーだろ」というツッコミが無効になるようにしてある。キャスティングひとつでベタなドラマがここまでリアルに。

 それだけに、子馬が長じて競走馬となるところでリアリティが一気に崩れる。ただでさえマイナーな福島県産馬が中央競馬デビュー。これが地方競馬の岩手か北海道デビューなら納得もいくというものだが。これじゃ春の甲子園の二十一世紀枠的デビューだよ。で、発走前に客が拍手とかしていて、その有様は競艇や競輪のCMに出てくる動員された客みたいに不自然。その新馬戦で、ゲート出て走り出さなくてビリになるというあたりに「リアル」を表現したのかもしれないが、こんな競走してたら発走調教再審査、二度と出走できず引退に追い込まれるのでは。無名競走馬の引退は死に直結する。ラストで相馬野馬追の場面がある。競走馬出身の馬がよくそこで走るらしいし、馬はそこでなんとか生き延びるのか、それとも……。と、最後の最後でいろいろ(別の意味で)心が重くなってしまった。

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<NHK特集ドラマ「絆~走れ奇跡の子馬~」試写会>(左から)岡田将生、新垣結衣、役所広司、田中裕子、勝地涼 ©スポーツニッポン新聞社/時事通信フォト

▼『絆~走れ奇跡の子馬~』
NHK 3/23、24  19:30~20:43