永野 ©時事通信社

 番組改編期には数多くのお試し番組が放送されるが、『鶴瓶&松本&ウエンツの電話帳から消せない人』が掘り出し物だった。笑福亭鶴瓶と松本人志、ウエンツ瑛士というちょっと意外な組み合わせのこの番組はそのタイトル通り、芸能人に、なかなか電話をかけることはないが、携帯電話の電話帳から消せない人を聞き出すという番組。

 携帯電話の電話帳は、その人の人間関係をあらわすデータベースのようなものだ。石田純一の電話帳に安倍晋三総理が登録されてあったり、出川哲朗にサッカー日本代表の岡崎慎司があったりと、意外な交遊録を覗き見するミーハー的な部分も楽しいが、それだけではそれほどの面白みもなかっただろう。この番組では「消せない」という部分をクローズアップした。そのことで、ただのデータベースから、その人の「思い」を抽出したのだ。

 たとえばお笑い芸人の永野。二〇一五年に大ブレイクを果たすまで二〇年以上、売れる兆しすらなかった。そんな永野が電話帳から消せない人は、かつての事務所の先輩であるさまぁ~ずの大竹一樹だという。テレビで売れっ子の大竹が自分の電話帳に入っていることが、売れない芸人を続けていく精神的なモチベーションになっていたというのだ。自分は売れっ子の連絡先を知っているんだとその電話帳が心の支えになっていたのだ。番組側は、一度もかけたことのない大竹へ電話をしてみませんかと提案。震えながら電話をかけるドキドキ感を視聴者も共有する。だから、実際に繋がったときの永野の何とも言えない嬉しそうな表情が一層胸に迫ってくるのだ。

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 山田邦子が電話帳から消せないのは約五年前に亡くなったヒップアップの小林すすむ。親友だったという。「なんとなくここからポチンと削除する勇気がないわね。これでお別れみたいな。もう逢えないんだけどね……」と寂しそうに話す。そして、きっと奥さんもその電話を残したままではないかと言うのだ。それくらい仲のいい夫婦だったと。実際に電話をかけてみる。呼び出し音が鳴る。残念ながら電話には出なかったが電話は生きていた! もちろん、電話番号が別の人に渡っている可能性もある。けれど、繋がったという事実それだけで奇妙な感動があった。

 電話帳はただのデータベースではない。その人の「人生」が宿っている。そのことをシンプルながら丁寧に証明した番組だった。

▼『鶴瓶&松本&ウエンツの電話帳から消せない人』
TBS 3/31 24:35~25:35放送