――まずは最近の話題として、『かたづの!』(2014年集英社刊)での柴田錬三郎賞受賞、おめでとうございます。これは昨年の夏刊行されたものですが、河合隼雄物語賞や歴史時代作家クラブ賞作品賞を受賞されて、ずっと話題が続いていますよね。
中島 ありがとうございます。単行本にして自分の手を離れたのが去年の3月ですし、連載が終わったのはその前の年なので、なんかずいぶん、おかげさまで長く話題にしていただいているなと思います。なんかね、清心尼の強い意志を感じます(笑)。
――本作の主人公ですね。これは中島さんにとってのはじめての時代小説で、江戸時代の東北に実在した女性大名の生涯がファンタジー要素を盛り込みつつ描かれます。八戸南部氏の当主となった清心尼は、決して戦をしようとせず、理不尽な思いをしても最終的には知恵と熱意で領地を豊かにしていく。もともとは雑誌を読んでいて、女大名が実際にいたと知ったことがきっかけだそうですね。
中島 そうそう。最初はどんな人だったのかもよく知らなくて、ただ女の大名がいたということだけにビックリして。それは面白そうだと思ったんですよね。
その時は自分が小説に書くということすらきちんと考えてはいなくて、面白い題材だから誰かが書いたらいいんじゃないかと思って、ちょっと資料を見た程度でした。そもそもこういう素材自体を私が書くということも、ないだろうと思ったんです。私はわりと家でのんべんだらりと生きている人間で、時々自分にあまりドラマがないことが作家としてどうなのかと思ったりするくらい、何もないんです。壁にぶちあたって死のうと思ったこともないし、大恋愛の末に人を刺そうとしたこともないし(笑)。自分自身、ドラマチックな素材に惹かれるようなタイプでもないし。
でもその後、震災の前と後と2回、東北に取材に行ったんです。東北は昔から自然災害の多いところですが、清心尼自身も、大きな地震や津波を体験していることが分かったんですね。彼女の人生は本当に苦難に満ちていて、そこを乗り越えていったものだと分かっていきました。そういうことを知ったり、世の中の震災やいろんな動きを見ているうちに、もうなんか、素材自体が私に書けと言っているような気がしてきたんですよね。清心尼に「私はあんたを捕まえたんだから、とにかく書いてもらわなくちゃ困るんだ」って怒られている気分になったというか(笑)。だから『かたづの!』は本当に不思議な小説で、何かが私に書かせているという感覚をいつも持ちながら書いていたんですよね。