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楽しんで書いた短篇集『妻が椎茸だったころ』

――いや、本当にいい小説でした。中央公論文芸賞の受賞も本当によかったなと思って。そして昨年は『妻が椎茸だったころ』(13年講談社刊)で泉鏡花文学賞を受賞されたんですよね。

妻が椎茸だったころ

中島 京子(著)

講談社
2013年11月22日 発売

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中島 これはすごく長いスパンで書いていたんです。5、6年かかっているんですよね。この『椎茸』と『パスティス―大人のアリスと三月兎のお茶会』(14年筑摩書房刊)は、ずっと書きためていたものがまとまったという本なので、それが一昨年、去年とぱたぱたっと本になったので、すごく多作な感じになっていましたね。

パスティス: 大人のアリスと三月兎のお茶会

中島 京子(著)

筑摩書房
2014年11月10日 発売

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――『妻が椎茸だったころ』は期間をおきながら書かれたわけですが、一冊の本にまとめるイメージはあったのですか?

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中島 そうです。最初は『小説現代』で禁断の愛だったかの特集を組むので短篇を頼まれて、短篇を書いたんです。それが不気味な感じのものだったので、次も、恋愛小説特集か何かの時に「またああいう感じで書きませんか」と言われて書いて、そうしたら連作でまとめないかという話が出てきたんです。その時に、自然界にある植物や菌類や鉱物といったものを題材にしてはどうかという話をしました。

――最初の話は老婦人との出会いが描かれますがオチにびっくり。表題作はいい話ですが、植物を連れ歩く男性の話なんて、すごく奇妙な話ですよね。一冊のなかにもへんてこりんで、味わい深い世界がいくつも広がっていて、こちらの受賞も納得でした。

中島 楽しんで書いた短篇集ですね。他の賞もそうですが、これも候補になったことは事前に知らされないので、家で炊事をしていたら、突然、金沢市の市役所の方から電話がかかってきて受賞を知らされたんです。にわかには信じられなくて。私があんまり疑い深い愛想のない声を出していたので、「ここに新聞社の人が来ていますから、かわってもらいましょうか」って言われてしまいました(笑)。

――でも本当にすごいなと思うのは、3作品とも全然バラバラの作風なのに、どれも抜群に面白いこと。しかも、長年中島さんの作品を読んできた身にとっては、どれもやっぱり、中島さんの作品だなと思えるんです。

中島 ああ、それはすごく嬉しいです。

――どの作品にもそこはかとないユーモアが感じられるわけですが、先ほど笑いを大事にされているとのことでした。高校生の時に落研だったとも聞いていますが、小説で笑いを大切にされるのは、何か原体験があるのでしょうか。

中島 笑える小説のほうが好きだったんですよね。小説というのはちょっとおかしくて、笑えるものだというような感じがしていたというか。だから、本当に好みの問題だと思います。

――ご両親ともにフランス文学者だったそうですが、その影響は何かあったのでしょうか。

中島 どうなんでしょう。いや、影響はすごくあると思います。うちに本がありましたから。小説の研究だったり、小説の翻訳だったりをする人たちがうちにいるから、小説を読んでいるということが当たり前だった、という意味では。両親ともにわりと読んだり、書いたりするのが好きだったので、自分も抵抗がなかったというのはあるかもしれません。私は基本的に書くことがとっても好きでしたから。

(2)に続く