アラフォー棋士として、将棋に思うこと
――阿久津さんにとって、順位戦をどう捉えてらっしゃるんですか。大目標として名人位を狙うというような。
阿久津 まずはひとつ上のクラスを、というのが捉え方ですね。いまB級1組にいて、名人位を狙うなんて言えません。もし言えるとしたら、注目を浴びているか、自分に絶対の自信があるかのどちらかでしょうね。
――年齢的には中堅と仰ってましたが、意識してしまいます?
阿久津 20代半ば、30代はじめの頃は年齢は意識しませんでしたが、37歳になった今では、必然的に頭も含めた体力など考えていかなくちゃいけないなとは思っています。将棋観は変わっていませんね。常に面白いですし、他の棋戦も気になっています。子供と遊んでる時も途中経過を見たりして。将棋を好きであるという感覚が持てなくなったら引退なんでしょうね。
――数年前に比べて、ご自分で棋力がどうなったかは思うところはありますか?
阿久津 自分では前よりも強くなっていると思いたいですね。そうじゃないとプロとして困ります。勝負とは別ですよ、若い時は勢いで勝てたりしたものですから。総合力、判断力では上がっているんだと信じたいです。現状維持したいと思ったら、ヤバいかなと思います。
――木村一基さんの快挙があったように、年齢を重ねたからこそできる将棋もあるのでしょうか。
阿久津 そうですね。勢いだけでは長い期間の活躍は難しいですから。経験値を上げていき、修正し新しい指し方に挑戦するという、木村さんの歩みは1つの指標みたいになったと思いますね。半端な経験だけは避けたいですが。
今も将棋を続けていける基本は「楽しさ」
――お子さんが生まれて将棋は変わりましたか?
阿久津 そこまで生活が変わったという気はしないですよ。1日ずっと盤に向かうタイプでもないですから。児童館に一緒に行って、開催中の棋戦をスマホでちらっとチェックしておくという。
――それはプロだから?
阿久津 基本、中継されてるものは観戦するんです。それは職業意識ではなく、単に好きだから。
――他の棋士もそうですか?
阿久津 棋譜を見ればいいという方もいますよ。人間の将棋に興味がない人も。僕はプロ意識より趣味意識が強くて、仕事だと割り切ってないところがあるかも。仕事だと思って対局に行くと辛いですよ。
――でもお子さんは環境が環境だけに将棋に興味を持つんではないですか?
阿久津 どうなのかなあ(笑)。僕は父から教わって、千駄ヶ谷の将棋会館へ通い、その後に八王子将棋クラブに入ってから本腰を入れたタイプですからね。「小さい頃から英才教育!」っていうノリはないですね。振り返ってみると、子供の時にハマった唯一のことが将棋でした。級が上がらずに悩んだものだったんですが、スイミングより楽しかったのかな。子供にも楽しいと思うものや場所を見つけてほしいと思います。自分が出会った将棋、今も続けていける基本は楽しさですから。今後も、子供の時に感じた楽しさをベースにして、タイトル戦に絡めるよう戦っていきたいと思います。
写真=佐藤亘/文藝春秋