熱戦の末に綺麗に終局を迎えるのがいい
――闘志っていうのは大事なんですね。
阿久津 勝った時、狙って指したものが当たった時の快感も大事かなと。とにかく勝てるのは何でも嬉しい(笑)。欲を言えば、熱戦の末に綺麗に終局を迎えるのがいいです。泥仕合になってしまうのは、ちょっとイヤですね。
――それは記録に残っていくから?
阿久津 棋譜が残りますからね。未来の人から「なんだ下手な棋士だな」なんて言われるのは避けたいですからね。
――そうして2018年に2度目のA級、順位戦を迎えました。まさに混戦のB級1組からの再昇級でしたが。
阿久津 正直、最近のAとB1クラスは大変だと思います。僕が前に経験したAクラス昇級時より、稲葉陽さん、広瀬章人さん、豊島将之さんなど年下が力をつけていた。斎藤慎太郎さんや菅井竜也さんというさらに若い棋士も活躍してるなという印象で。僕が自然に世代的には中堅になってしまったというか。より競争がシビアになっている印象ですね。
A級順位戦の初勝利目前で震えが……
――棋士の現役年齢が上がってきてる気もします。今や大山時代を終わらせた羽生世代もまだ第一線にいるという……。その棋士の年齢層の分厚さを昨今、ファンとして感じるんですが。
阿久津 確かに年齢差があるのに、実力格差が縮まっているとか、現場では感じますね。棋士の実力が底上げされたという。AIの存在もあると思いますが。ベテランを追いかけやすい研究環境でありつつ、ベテランも若手の実力を学んで戦えるようになったということでしょうか。
――棋士人生が従来より伸びてきてますね。
阿久津 先はわかりませんが、とにかく険しい感じにはなるでしょうね。
――そういう世代交代ならぬ世代混戦のA級順位戦でしたが、最終局は佐藤康光さんでした。
阿久津 事前にどういう勝負になるかは絞りきれませんから、負けたら順位戦全敗だとか、そういう雑音はあまり考えすぎずに臨みました。結果的には穴熊に入ったんですが、意識せずに自然に戦えたので、勝てて良かったとしか言いようがないですね。最後は出たとこ勝負だというぶつかり方をしました。小さいミスを積み上げていたな、と反省材料はありますが、読み間違いなく終えられたのでホッとしました。
――終局前に中継を見ていると、手元が震えてましたが……。
阿久津 震えると言えば羽生さんですけども。僕の場合も対局中にどこか力が入るとか、震えるとかはあります。勝負がはっきり決まってない時間が長いと震えるものだと思います。それと、震えるのは勝ってる人だけだと、見ていて気づきました。
――負けている側じゃなく。
阿久津 ええ、ようやく勝ったなという気持ちが身体反応に出るんです。負けた側はわかっていますからね。がっかりしちゃって、死を待つだけで覚悟してるので震えない。もし震えてたら変な局面でしょうね(笑)。力が抜けてる場合はあるかもしれないけど。