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特集観る将棋、読む将棋

「将棋を好きでなくなったら引退です」デビューから20年、阿久津主税八段がいまも実感する成長

藤井聡太七段との対局、順位戦A級での苦闘、父親としての日々――

2020/01/05

AI将棋によって変わったこと

――現在の将棋界はAIの波に洗われています。大きく変わったところはどこでしょう。

阿久津 過去の棋戦などをデジタルで考察出来ることで、先輩後輩の勉強する量が等質になったのか、実力差が出にくいように思えます。コンピューターを使用した将棋は20年前から考えると凄まじい進歩です。毎年毎年、アップデートされていくので追いつくために猛勉強しないといけない流れもあったりします。

 

――敢えて背を向ける方策もあると思うんですが。

阿久津 AI将棋に頼っていても、接戦を制するのは棋士の自力ですからね。全く使わないのも一つの方法でしょうが……ただ完全にAIでの研究をやめて戦うというのは心理的に負担ですね。ただでさえ、相手がどの程度、やってきたのかわからないで対局に臨む緊張感がある中、敢えてコンピューターを使わないという選択は厳しいように感じます。

――観戦する側も将棋界が変化してきたと実感します。ネット中継での評価値なんか特に。あれってどういう理解で捉えたらいいんですか?

 

阿久津 野球やサッカーのスコアに似ていると思っていただいていいんじゃないかな、対局中の優勢劣勢の目安という意味では。以前のように解説を聞いて、「今は後手番が優勢」と知るのではなく、一見してどちらが優勢なのか分かることができるツールですね。だから解説する側は楽になったと思います。ねじり合いになった時は考え込むことも、しばしばありましたから。ただ、ビックリするような好手や悪手が出たときのサプライズ感覚は、評価値が使用される以前のほうがあったとは思います。今では手を指す前に数値が出ちゃうので。

評価値は対局の際どいところは示していない

――途中から観戦しても理解しやすいのはいいですね。

阿久津 そうですね。ただ評価値で優勢だと表示されていても、一気に逆転される場合もあるんです。指す前に5つくらい選択肢があって、そこでしくじってしまうと負けてしまう。「1000点差があったのに、どうして?」とファンの方が口にすることがあります。だけど数値は現在の結果の評価であって、対局の際どいところは示していません。一手先に進めば、局面が変わるというのは普通にあります。対局というのは一本道での評価値1000点ではなく、いくつか評価値が上下する分岐点があるわけです。

――先行きの変わらない対局と変化の激しい対局があるんですね。

阿久津 数字というのは目安なんです。対局の全体像は数字だけでは、なかなか見えにくいのがプロ将棋の現実です。