2019年の将棋界を振り返ってみると、豊島将之竜王・名人の誕生、渡辺明三冠の復権、永瀬拓矢の相次ぐ二冠奪取、木村一基の悲願でもある初タイトル王位獲得の実現など、タイトル戦だけを見ても多くの出来事があった。

木村一基王位誕生は、「中年の星」として将棋界を超えたニュースとなった ©文藝春秋

 女流棋界では里見香奈による史上初の女流六冠達成と、その里見をタイトル戦で連続して破った西山朋佳女流三冠による二強時代が形成されている。

 もちろん、史上最年少棋士の藤井聡太七段にも引き続き多くの注目が集まった。惜しい所でタイトル戦の登場は実現しなかったが、新たな年を迎えて、ますます期待がかかる。

ADVERTISEMENT

失冠した広瀬はすぐにタイトル奪回のチャンス

 では、2020年の将棋界はどうなるだろうか。棋界の1年は王将戦七番勝負から始まるが、渡辺明王将に挑戦するのは広瀬章人八段だ。昨年末、豊島に敗れて竜王を失ったが、すぐにタイトル奪回の機会があるのは実力だけでなく、運も感じさせる。渡辺との番勝負は昨年の棋王戦五番勝負以来で、1勝3敗で敗れた雪辱を果たせるかどうか。

 そして王将戦とほぼ並行の形で行われる棋王戦五番勝負、こちらもタイトルを持つのは渡辺だが、挑戦権を獲得したのは新星の本田奎五段。佐々木大地五段との若手対決となった挑戦者決定戦を制して勝ち上がってきた。タイトル初挑戦からの奪取が実現すれば、2018年の叡王戦における高見泰地七段以来の快挙となる。

棋王戦挑戦者決定戦第2局、本田奎四段(右)が佐々木大地五段(左)を破る ©相崎修司

年度史上最高勝率の0.855を更新する期待も

 早速1月4日に対局があり、年明けからのハードスケジュールが確実になっている渡辺だが、昨年末時点での成績は28勝5敗の勝率0.848と、恐るべき高勝率を挙げている。タイトル2連戦だけでなく、他棋戦でも強敵との戦いが続くため、実現は簡単ではないが、中原誠十六世名人が1967年度に記録した年度史上最高勝率の0.855を更新する期待もかけられている。

 この新記録を実現するためには、勝ち数を増やすこと以上に「負け数を増やさない」ことが求められる。そのためにはどのような条件が必要なのだろうか。

 まず王将戦と棋王戦のタイトル戦だが、2棋戦を合わせて昨年同様に7勝1敗(昨年は王将戦が4勝0敗、棋王戦が3勝1敗)の0.875以上と、挑戦者をほぼ圧倒する必要がある。仮に両棋戦を1敗ずつで防衛しても7勝2敗と勝率が8割を切ってしまうので、高勝率の維持に結びつかない。