今年、特権階級を指す「上流国民」という言葉が注目され、流行語大賞にもノミネートされた。格差社会が叫ばれて久しい日本で、いま何が起ころうとしているのか。
 社会階層論、学歴社会論などが専門の社会学者、吉川徹・大阪大学人間科学研究科教授が読み解いた。

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 平成は、昭和天皇の健康悪化による自粛ムードの末、しばしの服喪を経て始まった。だが令和元年は全く違った。「計画運休」ならぬ計画改元だったからだ。結果、国民はかげりなく今回の皇位継承を受け止めることができた。

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 ところで今、日本人女性の第1子出産平均年齢は30.7歳、第2子出産平均年齢は32.6歳だ(内閣府が公表している2016年の数値)。25歳前後だった昭和の昔と比べると、ずいぶん高年齢化したものだ。すると皇位継承の30年のインターバルは、現代日本人親子の標準的な年齢差とほぼ同じだということになる。天皇家の親から子へ、子から孫へという「代替わり」は、この点で日本人の世代継承をまさに象徴するものだといえる。その粛々たる進行が、国を挙げて奉祝されたというわけだ。

 平成の始まりのときは、そうした世代間継承に反発したり、批判的にみたりする世論が一部だがあった。それはある面で至極もっともなことだっただろう。これを手放しで祝うことは、上層再生産という不平等構造の是認につながるからだ。翻って考えるならば、平成の30年間に、日本人は上層の世代間継承を、温かい「下から目線」を送りつつ黙認するようになったようにみえる。

世代間継承への温かい「下から目線」

 平成の後半期、昭和の宰相の子や孫たちが相次いで首相を歴任した。福田康夫、麻生太郎、鳩山由紀夫、そして安倍晋三だ。彼らの在任期間は通算で11年にもなる。その間、世論はこれをおおむね黙認してきた。

小泉進次郎衆院議員と滝川クリステルさん ©共同通信社

 今年の出来事としては、小泉純一郎元首相の息子の小泉進次郎代議士が、滝川クリステルと結婚し、時を経ずして環境相に就任した。来年にはさっそく二世(純一郎の孫)が生まれるという。4月の統一地方選挙、7月の参議院議員選挙では、相も変わらず世襲候補が数多く当選した。上層の地位継承は、地域社会レベルでも支持されていることが推し量られる。

 そういえば地上波テレビのバラエティ番組や情報番組では、長嶋一茂(ミスタープロ野球、長嶋茂雄の息子)や石原良純(元東京都知事、石原慎太郎の息子)がコメンテーターなどとして引っ張り凧だし、タレントのMatt(元プロ野球投手、桑田真澄の息子)の個性的なメイクも話題になった。

 ヒット中のディズニーアニメ映画『アナと雪の女王2』の主役の2人の日本語吹き替えを担当するのは、松たか子(昭和の歌舞伎界のプリンス松本白鸚の娘)と神田沙也加(昭和のトップアイドル松田聖子の娘)のセットだ。しかし、そのことに「まさにプリンセス限定か?!」など突っ掛かる向きはなく、好意的に受け止められている。

 これらを振り返ると、やはり日本人は上層の地位継承を黙認しはじめているのでは?という疑念がますます強まる。この方向での世論の「保守化」は、この先の日本の重要な論点となる可能性がある。