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 あるいは、多発した「あおり運転」にもそうした予兆は読み取れるかもしれない。これは見知らぬ通りがかりの相手への、激しい怒りの表明だ。様々なケースがあるが、相手がどのような車種、どの年式の車を運転しているかということで、その社会的地位をおおよそ推測したうえでの行動だと思われる。するとそこには、日常接することの少ない、「向こう側」にいる匿名の人びとへの怒りや不満の暴発があることが疑われる。

東大卒の志位和夫、山口那津男が選ばれない意味

 もうひとつは、7月の参議院選挙でみられた全く新しい動きだ。「れいわ新選組」の2議席とともに、「NHKから国民を守る党」(以下「N国」)が比例区で1議席を確保したのだ。「N国」の立花孝志党首は、「ぶっ壊す!」という決め台詞を叫ぶ人気ユーチューバーだ。そして彼は、政党党首には珍しく高卒学歴だ。

 彼は何を「ぶっ壊す!」と訴えているのか、初めは理解できなかった。しかし、やり玉に挙げられているNHKとは何かを考えれば、答えはみえてくる。NHKが他局と異なるのは、ニュース報道の分厚さと、教養、文化、国際コンテンツの多さだ。国民すべてから受信料を取って、自分たちには興味のない番組ばかりを制作するのは不合理だということなのではないか。つまり、党名に入っている「NHK」が表象しているのは、大卒層が主導する文化であり、N国は、大卒層だけが利益を享受している閉鎖的な社会を「ぶっ壊す!」と暗に主張したのだ。

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「NHKから国民を守る党」の立花孝志党首 ©AFLO

 だれが、「N国」に投票したのかは、まだ十分に分析されていない。また、この党の主張がどの程度精巧に設計されたものなのかも定かではない。だが「N国」とは、「大卒文化から国民を守る党」なのであり、そういうメッセージを発することで議席獲得に至ったのではないかと私は思う。そうだとすれば、「N国」は、サイレント・マジョリティの漠然とした不満や怒りを政治に動員する道筋をつけたことになる。それは東大卒の志位和夫が率いる日本共産党や、山口那津男が率いる公明党に投票して、あとは上層にお任せにするというこれまでの庶民の政治参加とは異なる動きだ。

 今はわずか1議席だけだが、これが万一大きな流れになれば、日本社会も分断へと歩みを進める可能性がある。イギリスやEU諸国、あるいはアメリカで起こったことは、まさにそういうことだ。

 まもなく幕を開ける2020年代には、地位継承を黙認する「保守化」が静かに進行し続けるのか。それとも、今年みられた分断と対立の芽がさらに伸びていくのか。いずれにせよ、日本のサイレント・マジョリティの「下から目線」の行方が気にかかる。

(本文敬称略)