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「人生ゲーム」のルール変更

 背後にある社会の仕組みとしては、次のようなことが考えられる。日本が右肩上がりに経済成長していた昭和の後半、社会的地位や豊かさにかんしては、子ども世代が親を上回っていくことが、国民全体の標準モデルとされていた。

大阪大学教授の吉川徹氏 ©文藝春秋

 しかし、失われた時代といわれた平成の30年の間に成長は鈍化し、軌を一にして雇用や収入や家族について流動性が高まった。子どもが親を超えることはもはや当たり前ではなくなり、手にしていたステイタスを失う下降事例が目立ってきた。

 その結果、「人生ゲーム」のルールは、かつてのような上昇競争ではなく、親と同レベルの学歴を得て、親と同等の職業キャリアを経て、親の資産を目減りさせることなく維持できれば、「成功」というように変わってきた。地位の同型的な継承は、今や庶民の肯定的な自己像もしくは、目指すべきサクセスストーリーとなり始めているのだ。

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 そうだとすれば、上層で世代間の継承がなされることが、妬ましい、けしからんとみられるのではなく、「親の代と同じ地位を継承できるのは幸せなことだ」とむしろ好意的に受け止められるのもわかる。つまり、温かい「下から目線」の背後には、自分の地位形成や人生のあゆみを肯定したいという多くの人たちの心性があるというわけだ。長く続く低成長社会は、こうして人びとを「保守的」にしていく。

「大学全入時代」は本当か?

SSM2015調査データより。 使用に際しては、2015年SSM調査データ管理委員会の許可を得た

 このグラフは、現在の日本人男女の生年世代別の父親と子の学歴継承の関係をみたものだ。「大学全入時代」という言葉が使われて久しいが、こうして成人全体をみると、依然として半数以上を親の代から大学教育を知らない非大卒再生産層が占めている。この層こそが、日本のサイレント・マジョリティに他ならないということになる。

 上層についてみると、左端の1935~44年の「戦前生まれ」では、父親も自分も高等教育卒という大卒再生産はわずか4.2%であった。しかし、その子世代に当たる1965~74生年の「昭和40年代生まれ」では、大卒再生産の比率は3倍の12.6%となっており、さらにその子にあたる1985~94生年のいわゆる「ゆとり世代」の若者たちでは、大卒再生産、つまり学歴についての上層継承者の比率は、さらに倍増して28.6%となっている。

「ゆとり世代」をもう少し詳しくみると、最も比率が多いのは低い地位継承を意味する非大卒再生産で、依然4割近くを占めている。これに増大した大卒再生産を加えると、若者たちの3人に2人は親と同じ学歴の継承者だということになる。他方、かつては標準モデルと目されていた非大卒世帯からの学歴上昇は、一時は3割に迫っていたがその後は底を打った感があり、若年層では22.5%にとどまっている。