児玉博 『堤清二 罪と業 最後の「告白」』(文藝春秋)
いくら実業家と作家、その両方で名を響かせようとも、あるいは80歳を過ぎようとも、いい年して父親や弟のことを聞かれ、語らなければならない堤清二。
「僕は、なんというのかな。人格のあるホテルを作りたかった。プリンスもいいんですよ、あれはあれで。でもああした宴会ホテルばかりじゃ、困るでしょう?」
弟・義明のホテルを宴会ホテルと蔑む。しかし清二のいう“人格のある”ホテル西洋銀座はその時、すでに閉館が決まっていた。
恵まれはしたが、どこにもたどりつけなかった虚しさがつきまとう堤清二の評伝。
春日太一 『天才 勝新太郎』(文春新書)
派手に遊ぶ様子が面白おかしく語られ、テレビのネタにされた晩年の勝新太郎。
それを期待して群がってくる人たちを相手に、「ブランデーを一気飲みし、金をバラまき、『世間のイメージする勝』という道化を演じた」。しかし「誰も、『人間・勝新太郎』のことを見ようとはしなくなっていた」。
スターであるがゆえの孤独である。そんな勝が心安らげたのは、昔からの仲間と好きなようにフィルムを繋げる編集スタジオだった。
勝にとって「映画」こそが居場所だったろうか。どんな華やかな場所よりも。そんな映画に生きた男・勝新太郎の評伝である。
角岡伸彦 『ゆめいらんかね やしきたかじん伝』(小学館文庫)
自分の名を冠にする番組をいくつ持とうが、やしきたかじんは歌手であり、歌手として孤独だった。
「みんな遠巻きにして、誰も近寄らへん。たかじん一人が王様みたいに座ってはるのや。何やこんな偉うなりはったんかなと思た。ほんまに一人ぼっちやったと思うわ」。
売れない時代を知る者が、絶頂期のコンサートの楽屋でみた、たかじんの姿である。
たかじんは、詐欺の罪で有罪判決を受け、どん底にいた小室哲哉に作曲を頼む。
「あいつもしんどそうやし、こういうときに使ってやらんとな」
破天荒に生きたようでいて、それは繊細さの裏返しであった、そんなやしきたかじんであった。