1ページ目から読む
2/2ページ目

 4巻の帯には『HUNTER×HUNTER』の冨樫義博が「(希望:絶望)≒(憎悪:愛情)私が好きになる作品の黄金比率です。これは…大好きです」とコメントを寄せている。ちなみに5巻の帯は『こち亀』の秋本治が担当。大御所作家が続けて帯を飾ったことで作品を手に取ったという向きも多い。 

立体的かつ魅力的なキャラクター 

 キャラクターもいい。敵の本丸は唯一人間を鬼に変えることができる鬼舞辻無惨。徹底したダークヒーローっぷりは清々しいほどで、普段は人間にまぎれて暮らしているが、自分に追及の手が及ぶと知れば、(偽りとはいえ)家族をも簡単に切り捨てる。鬼舞辻無惨は非道であるほどグロテスクな魅力を増し、炭治郎の悲しみや行動原理は強化され、作品の奥行きは広がっていく。2人の関係性はまるで糾える縄だ。 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ufotable(@ufotable_inc)がシェアした投稿 -

ufotableインスタグラムより

 

ADVERTISEMENT

 炭治郎の性格はというと、まっすぐでウソがつけず、鬼にさえ温情をみせる。地道に技を磨き、己を鼓舞しながら戦いのなかで覚醒してゆく様はまさに王道。多くの戦いの中で散っていった仲間の家族たちと文通している気遣いの人でもある。

 そんな炭治郎だが、ピュア故の天然な一面を持つ。時にそれが笑いに転化されるのだが、シリアスなターンとギャグのターンのうねりが絶妙で、読み味が重くなり過ぎない。特に一定以上の年齢の方なら、ギャグパートの炭治郎の表情にほのかな日野日出志みを感じることだろう。

 また、炭治郎の額には大きなアザが刻まれており、ヒロインたる禰豆子は竹製の口枷をつけている。一度見たら忘れられないビジュアルのインパクトは大きく、感情の乗った表情もその魅力を引き立てている。ちなみに、同期の伊之助は猪の毛皮を被っており、普段は小心者の善逸は、眠ると本来の力を発揮する。脇を固める面々も実に個性的だ。 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ufotable(@ufotable_inc)がシェアした投稿 -

ufotableインスタグラムより


ソーシャルでも楽しめるのがヒットの一要因 

 ファッションも特徴的。もちろん、少年マンガのそれはもともと奇抜なものが多いが、『鬼滅の刃』は学生服チックな隊服や麻の葉柄の着物に市松模様の帯など、ベースはジャパニーズ・トラディショナル。ゆえにリアルにも取り入れやすく、SNSではいたるところでコスプレを楽しむファンの姿を見ることが出来る。また、ライトにキャラクターと同じ髪色にしたり、炭治郎の耳飾り制作過程を動画で流す向きも多く、現代のエンターテインメントのヒットはソーシャルで楽しめるかどうかも無関係ではないことが窺える。 

 アクションシーンも技が多彩で楽しい。鬼殺隊の面々はそれぞれ火や水といった呼吸を使い、剣を振るうのだが、アニメにおけるそれはエフェクトも斬新だった。というか、初回のオープニングから鳥肌もので、荘厳な劇中曲と、静かに降り積もる雪の美しさ、それとは対照的に禰豆子を背負って走る炭治郎の深刻度にいきなり引き込まれた。

アニメ版『鬼滅の刃』予告編


 制作にあたっては雪中ロケを敢行したそうで、木の根元に積もる雪までリアリティーをもって再現。神は細部に宿るというが、原作愛に満ちた作画はネットでも神作画と称賛された。

 2020年には映画の公開も決まっている。いま、原作をいちから読み始めても遅くはない。 

鬼滅の刃 1 (ジャンプコミックス)

吾峠 呼世晴

集英社

2016年6月3日 発売