四年に及んだ本連載も今号で最後。最近は数億円規模のCM出稿を行う大手企業のアプリも増えたが、個人や小規模な企業がアイデア一発で世間をあっと言わせられるのがアプリ開発の醍醐味だ。最終回はそんな“アプリドリーム”を実現した三本を紹介する。
「スマホの普及が始まった二〇一一年からアプリ開発を始めた」と語るのは三十歳の金子輝昭さん。百万ダウンロードに迫る英語学習アプリ「英語物語」で知られるが最初のアプリは「スマホをズボンのポケットに入れて腰をふると、AV女優のあえぎ声が聞ける」というエロアプリだった。
「激しく腰をふると高得点が狙えるゲーム性が受け、あっという間に百万ダウンロードを突破。続編のグラビアアイドルの胸の大きさを当てる『おっぱいソムリエ』もヒットになり、月に百万円以上を売り上げました」
しかし、一四年になり状況が一変。“エロ追放”の嵐がアプリ界を襲いアップルに続きグーグルでも発禁になった。
「その前から妻と生まれたばかりの息子を大阪に残し、開発コストの安いフィリピンに拠点を移して制作していました。発禁措置を受け、エロではなく人の役に立つアプリを作りたいと思い開発したのが『英語物語』でした」
大阪の名門、清風高校を卒業後、早稲田大学に進んだ金子さん。尊敬する経営者は松下幸之助だという。
「幼少時に赤貧にあえいだ幸之助の、水道の水のように安価な品を社会に供給したいという“水道哲学”に心を打たれ英語教育の無料化を目指し『英語物語』を企画しました」
現在の売上は月に三百万円を突破。フィリピン人五名と日本国内の開発者らをようやく養えるようになった。
「大阪には年に四回ほど帰省しますが、五歳になる息子にもやっと自慢できるアプリが出来ました」(金子さん)
腰ふりアプリから始まった金子さんの挑戦はこれからも続いていく。
●英語物語/無料/対応OS:iOS、Android/リリース元:FreCre Inc.
問題数は2万問以上。ゲームを楽しみながら、英単語や文法を勉強できる
続く「ねこあつめ」は名古屋のベンチャー企業の社員二名が開発し、二千万ダウンロードを記録。実写映画まで制作されたというアプリだ。
「縁側にねこが好むグッズを置いておくとねこが集まってくる。ねこがお礼に残していく“にぼし”を集めこたつや爪とぎ等のアイテムを購入し、さらに多くのねこを集める、まったりとしたゲーム性が人気です」(アプリ業界関係者)
台湾等、海外でも大人気となったこのアプリ。ヒットの背景には、登場するねこの仕草が、ねこ好きが思わずニヤリとする“あるある感”に満ちており、画像がツイッター等で爆発的に拡散された事などが挙げられている。
「映画化の提案に当初、開発元は難色を示したようですが、アプリの世界観を損なわないことを条件にOKが出たようです」(同前)
まったりとしたアプリの空気感は伊藤淳史が主演で現在公開中の映画「ねこあつめの家」にも受け継がれている。
●ねこあつめ/無料/対応OS:iOS、Android/リリース元:Hit-Point Co., Ltd.
大ヒットしてもなおゲームの雰囲気と同様“まったり”と運営中だという
最後に、個人ベースで生まれた世界最大のヒットアプリの一つとして紹介したいのが「テンプルラン」。二〇一一年にキースとナタリアという米国人カップルが世に送り出したこのアプリは、黒いモンスターに追われ迷宮の中を疾走し続けるというシンプルなゲーム。ディズニー映画とのコラボ版や、関連コミック、カードゲームもリリースされた。
「二〇一三年時点で約百億円の利益を生んだと言われますが、その後も人気を拡大し一四年には十億ダウンロードを超えています」(同前)
日本ではこのアプリを模倣した“便意を抑えて疾走する”内容の「トイレダッシュ」というアプリも公開され、こちらも百万ダウンロードを超える人気となった。
個人のアイデアの閃きで世界的ヒットを生み出せるのがアプリの世界。最近は小学生から高齢者まで、開発者の裾野も広がっている。今後も型破りな発想のアプリが世間を驚かせることを期待したい。
●TEMPLE RUN/対応OS:iOS、Android/リリース元:Imangi Studios, LLC
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