ほんとうの料理人にはキャラが立っている人が多い
――作中、上野に舞台が移ったときに、流亭いん喜という落語家が登場してきます。彼はどういう経緯で誕生したキャラクターなのでしょうか。
イ:これも土地絡みの話になりますが、渋谷、クラブ、DJという連想の発想と同じです。昔からのとんかつの聖地である上野には、エンターテイメント施設としては寄席が有名ですね。そこから、若い落語家を登場させて揚太郎と組み合わせようと思いつきました。
小山:落語とラップを似たような感じで描くというアイデアもあったんです。そこでイーピャオから上野を舞台にしようという話があったときに、主人公を修業に出してラッパーの落語家と仲良くなって、とまとまっていきました。
イ:ちょうど3巻くらいのころだったので、話の目線を変えて新章を作ってもいいかな、というタイミングだったのもあります。
小山:NHKの朝ドラ、たとえば『あまちゃん』などにも東京編がありますよね。そういうイメージで「上野修業編」を作りました。
――もう少しキャラクターについてお聞きします。登場人物の中でひときわ目立っていた、藤井頼太というフリーライターがいますよね。単行本に収録されている彼のコラムは独特のセンスでおもしろかったのですが、あれはどなたが書いているのでしょうか。
イ:ありがとうございます。全部ぼくが書いているんですよ。
小山:登場人物の中では藤井頼太がいちばんイーピャオに近いです。素が出ている感じですね。
イ:藤井頼太になりきってというか、自分に頼太を降ろして書いていたからですかね(笑)。
――とんかつ方面だと、各とんかつ師のキャラクターが、それぞれが揚げるとんかつの特徴とリンクされているように見えました。
イ:実際に絵を描く小山の方が痛感していると思いますが、とんかつはラーメンやカレーほどには違いがわかりにくいんです。絵では違いを見せにくいから、バックグラウンドや揚げる人のキャラクターで補完する、という考えはありました。ただキャラクターの造形に関しては、実際に食べに行ったお店の人に影響されている部分もあります。
小山:ほんとうの料理人には、キャラが立ってる人が多いと思います。神楽坂の「あげづき」の店長さんは、サーフィンをやってそうな感じがしました。勝手な想像ですけれどね(笑)。
イ:逆に高田馬場の「とん太」は、ご夫婦がやっているアットホームな店ですね。
小山:そういえば、池袋に「寿々屋」というお店があったんです。最初に行ったすぐあとになくなってしまったんですが、その閉店の経緯をわざわざ常連さんにハガキで送っていたという話を聞いて、第6巻に登場する「鍛冶かつ」の話を思いつきました。
イ:閉まりゆく店、という形で着想を得たエピソードですね。