まさに「原晋マジック」の本領発揮という感じだっただろうか。
各校の戦力が拮抗し、「戦国駅伝」と呼ばれた第96回箱根駅伝。前半戦となるその往路を制したのは、フレッシュグリーンの襷・青山学院大学だった。
一歩間違えれば選手を“無駄駒”にしかねない
混戦の中でも光ったのは、指揮官である原晋監督の手腕である。
例えば、当日変更で1区にエース・吉田圭太(3年)を起用してきたが、これは非常に難しい判断だったはずだ。各校が一斉にスタートする1区はスローペースになる可能性もあり、そこにチームの最高戦力を投入する判断は、一歩間違えればその選手を“無駄駒”にしかねないからだ。
特に今大会は東京国際大の留学生、イェゴン・ヴィンセント(1年)や拓殖大の赤崎暁(4年)といったスタート起用が予想された有力選手が3区にスライドしたため、終盤まで誰も仕掛けないような展開も十分ありえた。それでもふたを開けてみれば序盤からハイペースでの鍔迫り合いが繰り広げられ、早々に1位集団から脱落するチームが続出。エース起用が的中する形となった。
そして往路優勝の決め手となったのが、4区に起用された吉田祐也(4年)の走りだった。首位の東国大と1分21秒差でスタートすると、13.7km地点でトップに立つ。終盤は一気にスパートをかけ、1時間30秒の区間新記録をマーク。区間2位だった東海大の名取燎太(3年)に1分以上の差をつける爆走で、今回2区で超人的な区間新記録を打ち立てた東洋大の相澤晃(4年)が前回大会で記録したタイムを24秒も更新してみせた。
今後の箱根駅伝の戦術トレンドを決定づけた
実は4区のスタート時点までは、戦前「5強」と言われたチームのうち東海大、青学大、國學院大は1分以内の差の中にひしめいていた。結果的にそこにトドメを刺したのが、吉田の走りだったわけだ。
そして実はこの走りは、今後の箱根駅伝の戦術トレンドを決定づけた可能性がある。
それが「4区重視」という戦略だ。
これまでの箱根駅伝の往路では「花の2区」という呼称に代表されるように、2区に絶対的なエースを置き、1区と併せて序盤でしっかりと流れを作る形を目指すことが多かった。だが、近年は戦力の均衡が進み、優勝候補校の間で1区での差が付きにくくなった結果、2区は集団走になるケースが増えた。すると、その集団についていくことで、最後に首位に立てなくとも先頭と差をつけずに襷リレーができればいいという「しのぐ2区」の考え方ができるようになってきたのだ。