昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

すぐに答えを出そうとする“ハウツー本”はもういらない!?

星野 人の悩みや苦しみって、人それぞれなんです。そんなの当たり前だと思うかもしれませんが、僕らはつい、そのことを忘れてしまいます。例えば、同じ会社で同じ上司のもとで働いていても、「上司が嫌でたまらないAさん」と、「大して気にならずに働けるBさん」がいます。Bさんが、Aさんに対して「そんなに気にしなくていいじゃないか」といっても意味がない。事象は同じでも、感じているつらさが違うからです。精神科医のところに相談にくる患者さんのつらさも、僕が想像するものとは違うかもしれない。その視点は、絶対になくしちゃいけないものです。だからこそ、本人の悩みは自分でなんとかするしかない。極端なことを言うと、自分のつらさを自分で気づいて、解決するしかないんです。

トミヤマ 悩んでいる人はすぐに答えを欲しがりますけど、安易なアドバイスをしないように、ぐっと我慢しなくてはいけませんね。まずは「そうなんだ、大変だね」と聞いてあげることが大事ですね。

星野 本人が気づく機会を与えずに、アドバイスをしてばかりだと、それは洗脳に近づきます。つまずいている人は「こうすれば治る」という強い答えを欲しがるので、時間はかかるけど、気づいてもらうまでじっと耳を傾けるしかありません。

トミヤマ 私は教員モードになると「あなたはこうすべき」ってつい言いたくなってしまうので気を付けなければ。でも、落ち込んでいる学生は「先生、どうしたらいいですか」と答えを求めにくるし、早急に問題を解決することをよしとする風潮も世の中にはありますよね。

星野 そうなんです。すごく問題だと思っています。その風潮は、世の中にあふれているハウツー本に象徴されていますよね。『心が軽くなる17の方法』みたいな本はなくした方がよくないですか?。

ハウツー本の効果に疑問を呈する星野氏 ©榎本麻美/文藝春秋

トミヤマ おお! 斬り込みましたね(笑)。

星野 心が軽くなると思っているのは、あなた(著者)でしょう、と声を大にして言いたいですね。その本が想定している対象者に“似た人”はいるかもしれませんが、当てはまらない人もたくさんいます。「こうしたら軽くなります」というアドバイスが当てはまらない人は、「自分はダメなんだ」と少し落ち込んでしまう。1つの答えを提示するということは、それによって救われる人と救われない人を、明確に区切ってしまう危険性を含んでいる。そのことを、相談される側である専門家は、絶対に忘れちゃいけないと思っています。

トミヤマ そうですね。私は、もやもやと悩んでいる学生にも「中途半端な自分も肯定していい」と常に言っています。いまや大学はどんどん就職予備校化し、大学1年時からインターン先を必死に探す目的的な風潮が強まっています。そこに苦しさを感じる学生も多いと思うので、“がんばらないことをがんばる”時間も、人生の糧になると伝えたいですね。

(後編に続く)

構成:田中瑠子 撮影:榎本麻美/文藝春秋

星野概念(ほしの・がいねん) 精神科医/音楽家
WEB『Yahoo! ライフマガジン』にて「星野概念のめし場の処方箋」、『CREA』で「精神科医はBARにいる」、『BRUTUS』で「本の診察室」を連載中。

トミヤマユキコ ライター/早稲田大学文学学術院助教
ライターとして『文學界』や『FRaU』などで執筆。早稲田大学で少女小説、少女漫画を中心とするサブカルチャー関連講義を行う。パンケーキの食べ歩き専門家でもある。