「日本の俳優は危機感を持っていると思いますよ」
平岳大は2019年の暮れ、妻子と共にハワイに移住した。日本の事務所を辞めて、海外のエージェントと契約したわけは、日本でこのまま仕事をすることへの危機感を抱くと同時に、新天地での希望を見出したからだと言う。
平はこれまで、日曜劇場『下町ロケット』(15年)、大河ドラマ『真田丸』(16年)、映画『検察側の罪人』(18年)、舞台『スーパー歌舞伎 ワンピース』(16、17年)などスケールの大きい作品のバイプレイヤーとして活躍してきた。シニア層には、故・平幹二朗と佐久間良子という名優の血を引いているといえば、おぉ、と目を細めるかもしれない。
先天的な運にも後天的な実力にも恵まれた俳優に日本脱出を決意させたのは、NetflixとBBC が共同制作したドラマ『Giri/Haji』(1月10日から配信)。このドラマの体験が、平にいったいどんな扉を開いたのか。
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BBCのドラマに日本人として初主演
――日本の芸能界への危機感とはどういうものですか。
「日本の芸能界にいると、俳優はテレビ、映画、舞台……と同じルートをずっと回っている感じがするんです。最たるものがテレビ。あらかじめ決まったドラマ枠があり、そこを埋めるために毎クール、似たようなドラマを制作、放送しています。さらにその延長線上で、同じようなメンツで映画を作るようになって、映画とドラマの垣根がなくなってきた。
俳優はそういった映画とドラマに出ながら、たまに実力や箔をつけるために舞台に出るみたいなルートが決められてしまっている。とりわけ若い俳優はそういう流れに乗るしかない。ところが、これまで仕事の中心にあったテレビドラマ(地上波)に徐々に配信ドラマがとって代わりはじめています」
――BBCとNetflixが共同制作した配信ドラマ『Giri/Haji』がまさにそれですね。
「地上波では不可能なクオリティーです。構想5年、スクリプト執筆に1年以上、キャスティングに4ヶ月かけて、撮影に8ヶ月、編集に6、7ヶ月もかけている。それだけ時間をかけただけあって内容が素晴らしく、僕もほんとうに演じる楽しみを経験できました。ジュリアン・ファリノ監督はナットクいくまで何度もテイクを重ねます。要するに忖度がない。テイク1とテイク2の何が違うかわからない、微妙な違いでも撮り直すので戸惑うほどでした(笑)。
それでいて、向こうは労働組合がしっかりしているから、休みなしで撮影をし続けることはないんです。その日のスケジュールを絶対に撮りこぼさず、時間きっかりに終わる。土日は休み、撮影と撮影の間は最低何時間空けるという決まりもあってパフォーマンスに差し障りがありません。それも日本と大きな違いです」
内容のみならず制作体制にも平が魅了された『Giri/Haji』は、外国人が描いた日本とロンドンとを股にかけた現代の任侠もの。死んだと思っていた弟がロンドンで生きていた。平が演じる刑事・健三はヤクザの抗争に関わっているらしい弟の救済と事件の解決を目指して、ロンドンと東京を駆けずり回る。弟役に窪塚洋介、ヤクザの親分役に本木雅弘、娘役に新人・奥山葵と日本人キャストも多い。
――BBCのドラマに日本人が主演することは快挙。どうやって主演に選ばれたのですか。
「きっかけは、原田眞人監督の『関ヶ原』(17年)を、『ラストサムライ』(03年)などでキャスティング・ディレクターをやっている奈良橋陽子さんが観て、オーディションを勧めてくださったんです。テープオーディションのために自分で課題のシーンを演じたものを撮ってイギリスに送り、全部で4回くらいのやりとりを経て選んでもらいました」