――決め手はなんだったと思いますか。
「健三という役を演じるにあたり監督は『もっと疲れてほしい』としょっちゅう言っていて、僕の顔がひどく疲れた人物にピッタリだったんじゃないかと(笑)。このクマがはじめて役に立ちましたよ、というのは冗談ですが、イギリスは人間の内面を突き詰めていくようなダークな芝居が好きで、僕にそういう雰囲気を感じていただけたようです」
――イギリスでは「繊細」と評価されていた演技も重要だったと思いますが、英語ができることも強みだったのでは?
「それもありますね。15歳のときから大学までアメリカ留学していた甲斐あって、監督とコミュニケーションをするとき、通訳を通さずに行うことができました。監督は細かいところにこだわりのある人でニュアンスを直接やりとりしたほうが良いですから。弟役の窪塚洋介さんなど日本人キャストの通訳をしたりすることもありました。
もっと余裕があれば、台本の細かい部分も自分の分だけでなく窪塚さんの分までチェックできたんですけれど……。パート2ができたら、そこまでやってみたいです」
――早くもパート2の可能性も?
「可能性はあると思います。続編ができそうな余韻のある終わり方なんですよ」
今、ハリウッドでは、ブロンド、ブルーアイの俳優が売れない
――『Giri/Haji』で注目すべきは、冒頭30分、日本語の会話が続くこと。日本制作でなく、世界配信にもかかわらず、珍しいです。
「世界配信作品にしては攻めていますよね。なぜ、そういうことが可能になったかというと、アジア及び日本が注目されているのだと思います。
今、ハリウッドでは、ブロンド、ブルーアイの俳優が一番必要ないと思われていて、むしろ、アジア人の俳優が求められています。『クレイジー・リッチ!』(18年)はキャストの大半がアジア人ながら大ヒットしました。近年、日本で撮影する作品も増えていて、『Giri/Haji』のあと出演が決まった『G.I.ジョー』(09年)のスピンオフ『『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』』(2020年公開予定)も日本ロケがあります(この取材のときの髪型は『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』のためのもの)」
――『Giri/Haji』も日本でロケをしていますね。
「『Giri/Haji』の日本ロケは、いわゆるツーリストが喜ぶような場所を一切選んでいません。日本が舞台の海外作品に必ずといっていいほど出てくる渋谷のスクランブル交差点などといった場所はあえて外して、上野、八丁堀、代々木上原……日本の生活のリアリティーを感じる場所でちゃんと日本人を描こうとしているのを感じました。
大きな事件を解決するカタルシスではなく、細かい人間関係を大事にしていて、僕が主役とはいえ、弟や娘との関係や、ゲイのロドニーとの関係などを深く描いた、スタイリッシュでありながらハートフルなドラマです」
“義理”も“恥”も、どこの国にもあるもの
――タイトルの“義理”と“恥”とはまさに日本人のメンタリティー。外国人の作家が描く任侠的な世界には誤解はないものですか。
「いわゆる、“ヤクザ”、“富士山”、“芸者”みたいなね(笑)。脚本家のジョー・バートンがこの物語を思いついたきっかけは、彼の昔の恋人が大学だか大学院だかに通っていたときに、かなり年をとった日本人の留学生がいて、誰ともコミュニケーションをとらず、それがすごく不思議だと。毎日、その奇妙な日本人の話を彼女がするものだから、ヤクザじゃないかと妄想が膨らんで……そこから『Giri/Haji』の構想が生まれたそうです。
健三は“義理”と“恥”の間で揺れていて、父であり夫であり長男であり、それぞれ義務を果たそうとしますが、無理やりそれを行うことで恥の上塗りをしてしまう。そういう“義理”も“恥”も多かれ少なかれ、どこの国の方にもあるもので、ジャポニズムみたいなものにはなっていないと思います」
――平さんは『スーパー歌舞伎 ワンピース』に出ていらっしゃいますけれど、外国の方はそういうものに興味を持ちませんか。
「“歌舞伎”と“スーパー歌舞伎”は何が違うのか? と聞かれたことがあって、説明に困りました(笑)」