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 しかし、その行動原理を「ハン」で読み解く黒田氏は、次のように論じている。

「政界筋によると、文政権内部には左翼系の原則主義というか強硬論が強くあって、途中で現実主義に転換した盧武鉉政権の経験を逆に反面教師として、否定する声が結構あるというのだ。つまり盧武鉉は途中で現実と妥協したため、左翼革新政権としての目標(理想)を実現できず失敗したという評価である。

 彼らの主張によると、その結果が次の政権を保守勢力(李明博)に明け渡すことになり、ひいては退任後の盧武鉉の自殺という悲劇にもつながったということになる。(略)

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死去した盧武鉉元大統領の遺影を運ぶ文在寅氏(左)〔2009年5月〕 ©AFLO

 では、彼らは今後の政局において政権の政策基調を『左派的な原則維持』でいくのか、それとも『現実主義への変化』を目指すのか。『盧武鉉のハン』でいえば、方向性としては前者である。左翼革新勢力にとっては、現実への妥協は現実に押されたことであり、それは政権(権力)への求心力の低下につながると考えるからだ」

国民に見透かされた露骨な「反日風」

 ただ一方で、文在寅大統領の繰り出す「反日カード」には、国民も"白け"はじめているという。黒田氏が寄稿で引き合いに出すのは、韓国政界で使われる「北風」という言葉だ。

 韓国では、選挙前に北朝鮮の軍事挑発などがあると世論に警戒論が高まり、対北強硬論の保守派に有利に働くことを「北風」という。ところが近年、北の脅威が後退して、国民の間には「北風」の政治的利用に不信感が広がっている。これと同じ反応が、「反日カード」にも見られるという。

「100万人規模」とされた2019年10月の保守派のデモ ©文藝春秋

「曺国を追い落とした野党・保守陣営のデモには『文在寅の反日扇動にはだまされるな!』のスローガンも見られた。世論のかなりの部分は文政権の昨年夏以来の反日政策について、曺国スキャンダルなど内政上の困難回避のための術策と見破っている。とすると今後、反日カードの効用は制限的にならざるをえない。(略)

 反日カードも『日本風』あるいは『反日風』ということができる。この風は『北風』と違って保革、左右関係なく政治的効果があったが、これも露骨に使われると逆効果の可能性があるというわけだ。保守陣営の曺国批判デモで『文在寅の反日扇動にだまされるな!』のスローガンが登場したのはそれを物語っている」