習近平氏の訪日については、尖閣諸島や香港などの問題から、自民党内でも異論の声が上がり始めている。国賓訪問についての閣議決定もこれからだ。慎重に議論を進める必要があるとき、自ら「訪日は4月」と明かしてしまった。これは、自分で自分の手を縛る行為に他ならない。
習近平氏の訪日については、これまでも「安倍外交のレガシーづくりを狙った首相官邸主導の産物」という冷ややかな見方が各方面からなされてきた。北村氏の行動は、「安倍首相のために功を焦った行動」という批判が出ても仕方あるまい。
「中国は今後、北村氏を軽く見ることになるだろう」
また、王岐山氏は国家副主席とはいえ、中国共産党常務委員ではない。もちろん、こう言えば、日本政府は「王岐山は天皇即位の礼で、習近平の特使として来日したのだから、北村が会っても何の問題もない」と釈明するだろう。しかし、北村氏は仮にも日本の安保政策の実務トップだ。カウンターパートは楊潔篪中国共産党政治局員だが、「儀礼上の訪問」をするとなれば、やはり常務委員のトップ7に会うことを目指すべきだろう。
事実、中国駐在経験がある在京の外交筋からは「前任の谷内正太郎国家安全保障局長であれば、常務委員との面会を目指しただろう。常務委員に会えないなら、楊潔篪とだけ会って帰ったのではないか。中国は今後、北村氏を軽く見ることになるだろう」という声が上がった。
こういうことを繰り返すことは、北村氏自身のためにも日本のためにもならない。日本外務省や防衛省など官僚組織は重要な情報を北村氏に上げることを躊躇するようになるだろうし、海外からは与しやすしと受け止められるからだ。
安倍官邸はこの難局を乗り切れるか?
日韓GSOMIAの延長を巡って混乱した日米韓安全保障協力は今後、更なる難局に直面するだろう。
北朝鮮は2019年夏ごろから、大陸間弾道ミサイル(ICBM)用の移動発射台にも使える、コンクリート製の土台を各地に整備し始めた。韓国の情報機関、国家情報院は「北朝鮮は間もなく中距離弾道ミサイルを発射する可能性が極めて高い」と分析している。
最初に述べたINF全廃条約の消滅に伴う、米国の中距離ミサイルを、日韓を含む東アジアに配備する問題は、北朝鮮問題以上の重い課題となって、日本国内を騒然とさせるだろう。
果たして、安倍官邸はこの難局を乗り切ることができるだろうか。日韓でいがみ合っている場合ではない。
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牧野愛博氏の「GSOMIA『文在寅迷走』の全内幕」は「文藝春秋」1月号および「文藝春秋 電子版」に掲載されています。
GSOMIA「文在寅迷走」の全内幕