「文藝春秋」1月号の特選記事を公開します。(初公開 2019年12月17日)

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 日本と韓国が11月22日、失効寸前だった軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の延長で合意した。ただ、韓国大統領府が延長直後の11月24日、日本政府が合意と異なる発表をしたと反発、さらに「日本が謝罪した」と明らかにすると、菅義偉官房長官が謝罪の事実を否定するなど、応酬が続いた。

 それぞれが、不満を抱えたうえでの延長だったことを告白した格好だが、それは、米国政府が陰でGSOMIA延長を両国に働きかけた結果の副産物だったとも言える。

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文在寅大統領 ©AFLO

日米韓の不協和音に「中国が手を突っ込んできた」

 筆者は一連の外交戦の顚末について「文藝春秋」1月号に寄稿したが、日米韓の不協和音につけ込む動きが早くも始まっている。

 その一つが、王毅中国外相の動きだ。新聞各紙は12月4日、王毅外相がソウルを訪れた際、韓国の康京和外相に対し、中距離核戦力(INF)全廃条約の消滅を受けて、韓国に米国の中距離ミサイルを配備しないよう圧力をかけたと報じた。これは対岸の火事ではない。

 日本政府は発表していないが、王毅氏は11月25日、茂木敏充外相との会談でも、「米国の中距離ミサイルが日本に配備されれば、日中関係に深刻な影響が出る」と警告した。

安倍晋三首相 ©JMPA

 王毅氏は、8月に北京で行われた日中韓外相会談の機会に、河野太郎外相(当時)と康京和外相にそれぞれ、米国の中距離ミサイル配備について同様の警告を行っている。今回はGSOMIA延長を巡るドタバタの直後に起きた出来事だけに、日米韓の政府関係者の間では「3カ国が不協和音を奏でている隙に、中国が手を突っ込んできた」という声が上がっている。

国家安全保障局長に就任した北村滋氏

 そもそも、今回の一連の動きのきっかけは、日本による輸出管理規制措置の強化を受け、安全保障分野で報復行為に出た韓国政府だ。その行動は十分、批判に値するが、徴用工判決問題を巡る韓国政府の対応の遅れにいらだって輸出管理規制措置に打って出た日本政府にも責任の一端はある。

 それだけに、日本政府には日米韓の防衛協力を従来以上に強化する責任がある。ただ、果たして、ちゃんとやれるだろうかと不安を覚える出来事も目につく。

 その一つが最近、日本の安全保障戦略を担う国家安全保障局長のポストに就いた北村滋氏の動きだ。北村氏の局長就任にあたっては、「警察官僚が安保戦略を統括できるのか」という指摘が各メディアから上がった。同時に「北村氏は非常に優秀で、不安はない」という反論もあった。結果が重要であり、警察官僚だからダメだという論法を筆者は取らない。

 ただ、北村氏の行動は、必ずしも万全とは言えないようだ。