《解説》フランス政府は「形での統合」を求めた
この中でまずポイントとなるゴーン氏の発言は、提携が続くのは「一部の人たちのおかげではないか」という点だ。一部の人たちとは、ずばりゴーン氏を指す。3社アライアンスは、強大な権力を持つゴーン氏に依拠しているという意味だ。フランス政府もその点を見抜いていて、ゴーン氏に対して退任後も日産とルノーの関係が継続することを求めた。
ルノーと日産の提携は、株式の論理上は日産に43%出資するルノーが実質的に日産を支配しているが、お互いが独立した組織として存在し、強みを持ち寄りながらシナジー効果を出すことに主眼が置かれていた。
「アライアンス(同盟)」という表現はそれを象徴している。たとえば、日本と米国は「同盟関係」と呼ばれるが、軍事力など国力は米国が上だが、外交上は対等な関係で協力し合うことと少し似ている。
アライアンスの中に三菱も入ってきて、独立した3社が、ある分野では共同戦略を取るものの、利害関係が生じることもある。たとえば、共同開発したクルマの生産拠点をどこにするかだ。日産は国内雇用を守りたい時には国内での生産を目指すが、ルノーも同様に自国での生産をしたいと考える。こうした綱引きの局面では強大な権力を持つゴーン氏が微妙なパワーバランスの上に立って裁定してきた。
ゴーン氏は経営統合しなくても自身の力で日産を完全に制圧していることをフランス政府にこれまで見せつけてきた。ところが、ゴーン氏の任期が長くなったことで、いずれ退任することを見越して、仏政府は「ポストゴーン」のマネジメント体制の構築をゴーン氏に要求した。ゴーン氏のようなパワーを持つ経営者は今後出ないと見て、「形での統合」を求めたのである。
「おいしい」地位は手放したくない
次に大きなポイントは「私の任期が2022年までと申し上げましたが、だからといってリタイアするという意味ではないかもしれないですよ」「役に立つ限り奉仕し続けます」という発言だ。ここにはゴーン氏の本音が出ていると見る。
今回の日産の社内調査などから明らかになったゴーン氏の公私混同ぶりを見ると、会社のカネを食い物にしているが、氏の立場になれば今のポジションは「おいしい」わけで、その地位は手放したくないということだ。フランス政府に対しても、「人に依拠した提携」なのだから、私がこのままいれば、この提携を続けられると主張することもできる。
ただ、ゴーン氏はフランス政府が要求するルノーと日産の関係を不可逆的なものにすること、という条件を呑んで2018年、ルノーCEO職に再任された。ルノーCEO職が、3社アライアンスの共通戦略をつくる統括会社「ルノー・日産BV」のトップを務めるという規約が両社間にある。このため、ルノーCEOが事実上の3社アライアンスのトップであり、この地位にこだわったゴーン氏がフランス政府の要求を呑んだ。